「社員に専門的な技術を身につけさせたいが、外部研修の費用が高額で二の足を踏んでいる」
「研修に参加させている間も給与が発生するため、会社としてのコスト負担が重い」
中小企業の経営者様や人事担当者様から、このようなお悩みをよく伺います。
現場の業務が多忙な中で、従業員を研修に送り出すことは、一時的とはいえ、会社にとって小さくない負担となります。しかし、だからといって人材育成を後回しにすれば、会社の成長は止まってしまい、従業員の定着率低下にもつながりかねません。
実は、このような課題を解決するために、国が用意している強力な支援制度があります。それが、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の「人材育成訓練」です。
この制度を活用すれば、研修にかかる「受講料などの経費」だけでなく、研修期間中に支払う「賃金」の一部まで助成を受けることが可能です。令和7年4月からの制度改正により、賃金助成額の引き上げなど、さらに使いやすい制度へと進化しています。
本記事では、専門的な法律用語はできるだけ使わず、この「人材育成訓練」を活用して、コストを抑えながら社員のスキルアップを実現する方法を、実務のポイントに絞ってわかりやすく解説します。
1.【制度概要】シンプルで使いやすい「人材育成訓練」とは?
「人材育成訓練」とは、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための”OFF-JT(座学や実技演習)”に対して助成するコースです(パンフレットP18より引用)。
他のコース(有期実習型訓練など)と異なり、”OJT(働きながらの現場実習)”はセットになっていません。純粋に「業務を離れて学ぶ時間」を支援する制度です。
このコースの特徴としては、”シンプルさ” と”対象者の広さ”が挙げられます。
外部研修に行くあるいは講師を呼んで社内研修をするだけで要件を満たせ、面倒な「OJT訓練日誌」の毎日作成や指導担当者の配置が不要です。そして雇用保険に入っている従業員であれば、正社員、契約社員、パートタイマーを問わず対象になるという対象者の広さもメリットの1つです。
2.【助成額と助成率】いくらもらえる? (中小企業の例)
この助成金でもらえるお金は、大きく分けて「経費助成(受講料など)」と「賃金助成(訓練時間の給料補助)」の2種類です。ここでは中小企業の場合の金額を紹介します(大企業は少し下がります)
経費助成(受講料などの補助)
| 助成率 | 賃金要件等加算 | |
| 正規(正社員) | 45% | 60%(+15%) |
| 非正規(パートやアルバイト) | 70% | 85%(+15%) |
研修にかかった入学料や受講料などが戻ってきます。
正規雇用の方への訓練は45%で、賃上げ等をすれば60%(+15%)にアップ!
非正規雇用の方への訓練は70%で、賃上げ等をすれば: 85%(+15%)と高めに設定されています。
賃金助成(研修期間中の給与補助)
| 助成額(1人1時間あたり) | 賃金要件等加算 | |
| 正規(正社員) | 800円 | 1000円(+200円) |
| 非正規(パートやアルバイト) | 800円 | 1000円(+200円) |
従業員が研修を受けている間も、会社は給料を払う必要があります。その負担を軽減するための助成です。
基本: 1人1時間あたり 800円(★令和7年4月から増額されました!)
賃上げ等をすれば: 1人1時間あたり 1,000円(+200円)にアップ!
【重要】eラーニング・通信制の注意点
いつでもどこでも受けられる「eラーニング」や「通信制」は便利ですが、助成金においては以下のルールがあります。
経費助成: 対象になります。
賃金助成: 対象外(0円)です。
「eラーニングを受けさせている時間の賃金助成も計算に入れていた…」という失敗が無いよう必ず覚えておいてください。
👉 「パートやアルバイトの正社員登用を検討している」という方は、こちらの記事もご覧ください。
3.【金額入り事例】成功と失敗のケーススタディ
実際にどのような研修が対象になるのか、具体的な金額とともに見ていきましょう。 ※以下はすべて中小企業の例です。助成額は2025年4月改正後のレート(基本額)で試算しています。
ケース1:建設業(中堅の正社員がドローン操作技術を習得)
入社5年目の正社員(現場監督)
【訓練内容】
内容:外部スクールでの”ドローン操縦士回転翼3級講習”
費用:受講料20万円
期間:3日間で計20時間
【受給額シミュレーション】
・賃金助成:16,000円(20時間×800円)
・経費助成:90,000円(20万円×45%)
――――――――――――――――――――
合計受給額:106,000円
ケース2:介護業(契約社員が実務者研修を受ける)~訓練後賃上げをする場合~
契約社員(介護スタッフ)
【訓練内容】
内容:外部スクールでの”介護福祉士実務者研修”(通学コース)
期間:7日間で計50時間
費用:受講料10万円
【受給額シミュレーション】
※訓練後、基本給を**20万円から21万円へ「5%アップ」**させた。
・賃金助成:50,000円(50時間×1,000円)
・経費助成:85,000円(10万円×85%)
――――――――――――――――――――
合計受給額:135,000円
ケース3:飲食業(全社員へ「接遇マナー研修」)~不支給の場合~
全従業員
【訓練内容】
内容:外部講師による”社会人のためのビジネスマナー・挨拶研修”
結果は、不支給(0円)
【なぜ不支給か?】
”接遇・マナー講習等、職業人として共通して必要となるもの(基礎的なスキル)”は、助成金の対象外とされているからです(パンフレットP38「対象とならないOFF-JT」)もしこれが、「ソムリエ認定講座」や「食品衛生責任者講習」のような専門的な内容であれば、対象になった可能性があります。
4.【支給要件】複雑なルールを整理!
支給要件は大きく「訓練の要件(どのようなカリキュラムか)」と「労働者の要件(誰が受けるのか)」の2つで構成されています。
この2つの基準をすべて満たさなければ、助成金は受給できません。
※要件の出典:「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(令和7年4月1日版)」P18
【訓練の要件】

① 職務関連性:現在の仕事、または将来就く予定の仕事に直結する専門的な内容でなければなりません。趣味・教養的なものや、接遇マナーなどの基礎的なスキルのみの研修は対象外です。
② 実施形態:現場で働きながら教えるOJTではなく、通常の業務を離れて行う座学や実技演習である必要があります。
③ 実施方法と時間数★重要
| ・通学制 ・同時双方向型の通信訓練 | この10時間は、休憩時間を除いた正味の講義時間が10時間以上であることが必要です。 「同時双方向型の通信訓練」とは、Zoom等のライブ研修のことで、同時かつ双方向的(オンライン)で実施されるものを指します。 |
| ・eラーニング ・通信制 | 動画視聴研修などの場合は、あらかじめカリキュラム等で定められた標準学習時間が10時間を超えているか、学習期間が1か月以上設定されている必要があります。 |
④ 実施場所:外部の研修機関に通わせる形でも、社内で講師を立てて行う勉強会形式でも可能です。ただし、eラーニングや通信制は事業内訓練としては認められません。(案内P35)
【労働者の要件】

① 被保険者資格:
・訓練を受けている間、雇用保険に加入している従業員
・(訓練期間中は雇用保険に入っていなくても)訓練終了時や申請時までに雇用保険に加入する有期契約労働者等(パートやアルバイトなど)
② 計画届への記載:計画届に名前のない従業員に訓練を受けさせても助成金の対象とはなりません。
③出席率と修了要件★重要
| ・通学制 ・同時双方向型の通信訓練 | 出席率が8割を下回ると、その人分の助成金は全額不支給となります。遅刻や早退も時間数から引かれますのでご注意ください! |
| ・eラーニング ・通信制 | 期間内にすべてのカリキュラムを終えていないと対象外になります。 |
④育児休業中訓練:育児休業期間中に訓練の受講を開始する必要があります。
5.【全体フロー】申請から受給までの流れ
人材育成訓練は、研修が終わってから申請しても1円ももらえません。必ず”事前届出”が必要です。
計画作成
社内で”職業能力開発推進者”を選任し、”事業内職業能力開発計画”を作成して従業員に周知します。
計画届の提出(★重要期限)
原則として、”訓練開始日から起算して1か月前まで”に、管轄の労働局へ”職業訓練実施計画届”を提出します。1日でも遅れると受け付けてもらえません。
訓練実施
計画通りに研修を受けます。急な病欠などで”出席率が8割”を下回ると、助成金が出なくなるため注意が必要です。
支給申請
訓練終了日の翌日から起算して”2か月以内”に申請書類を提出します。
※具体的な書類の書き方はこちら 計画届の記入例や、添付書類のチェックリストなど、実務担当者向けの詳細は以下の記事で解説しています。
👉 【画像付き】人材開発支援助成金の申請書書き方・記入例完全マニュアル
6.よくある質問(Q&A)
Q1.eラーニング(動画研修)は対象になりますか?
A.なります。ただし、eラーニングまたは通信制の訓練の場合、経費助成のみで”賃金助成(時給800円)は支給されませんのでご注意ください。その他、標準学習時間が10時間以上であることやLMS(学習管理システム)で進捗管理ができることが要件となっております。
Q2.新入社員研修にも使えますか?
A.はい、使えます。ただし、研修カリキュラムにご注意ください。
新入社員研修であっても、10時間以上で職務に関連する専門知識(プログラミング、測量、財務会計など)を学ぶものであれば対象になります。
しかし、ケース3のように「名刺交換」や「挨拶」などの一般的なビジネスマナー研修のみの場合は対象外となるリスクが高いため、専門スキルの講義と組み合わせて実施するなどの工夫が必要です。
7.【まとめ】自社の「育てる力」を助成金で強化しましょう
「人材育成訓練」は雇用保険に加入していれば誰でも利用できるお手軽の定番のコースです。
人材育成は、企業の未来への投資です。この助成金を有効活用し、未経験者を自社の頼れる即戦力へと育て上げてください。

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※本記事は2026年1月時点の法令・情報に基づき作成しています。
助成金の支給要件は頻繁に変更されるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(令和7年4月1日版)」
「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)支給要領(令和7年4月1日版)」
👉 厚生労働省:人材開発支援助成金 公式ページ(申請書・要領のダウンロードはこちら)
