従業員から「働きながら大学院で学びたい」「資格取得のためにまとまった勉強時間がほしい」と相談を受けたとき、どう対応していますか。
「業務に支障が出るから難しい」「休んでいる間の給料をどうするか」と悩んで、結局断ってしまうことも多いのではないでしょうか。
一方で、優秀な人材ほど学びへの意欲が高く、こうした要望に応えられないと、転職を検討されてしまうリスクもあります。年次有給休暇だけでは足りず、かといって無給の休職扱いにすると生活が成り立たないという状況では、学びたくても諦めざるを得ません。
実は、従業員が働きながら学べる環境を整えるために、30日以上の有給休暇制度や短時間勤務制度を就業規則に定めれば、制度導入時に20万円、さらに従業員が休暇を取得して訓練を受けた場合は1時間あたり1,000円の賃金助成を受けることができます。
この記事では、従業員が働きながら学べる環境を整える「長期教育訓練休暇等制度」について、要件と活用方法を整理していきます。
こんな企業におすすめ!
・従業員から「働きながら大学院に通いたい」「資格取得のための休暇がほしい」と相談を受けることがある
・優秀な人材の学びを支援したいが、長期休暇を与えるのは現実的に難しいと感じている
・育児や介護との両立を考え、柔軟な働き方と学びの機会を提供したい
・従業員のキャリア自律を促進し、エンゲージメントを高めたい
・人材の定着率を高めるため、学びを支援する制度を整備したい
1. そもそも「長期教育訓練休暇等制度」とは?
(以下、人への投資促進コースのご案内P24、P25、P26より引用)
「長期教育訓練休暇等制度」は、従業員が働きながら自発的に教育訓練を受けられる環境を整備した事業主に対して助成される制度です。
簡単に言えば、「大学院に通いたい」「資格を取るためにまとまった休みがほしい」という従業員のために、30日以上の休暇制度や短時間勤務制度を就業規則に定めれば、会社に助成金が出る仕組みです。
2つの制度がある
長期教育訓練休暇等制度には、「長期教育訓練休暇制度」と「教育訓練短時間勤務等制度」の2つがあります。
「長期教育訓練休暇制度」:30日以上の有給または無給の教育訓練休暇を付与する制度です。
従業員が大学院への進学、長期の資格取得講座、海外留学など、まとまった期間の訓練を受けるための休暇を取得できるようにします。
例えば、社会人大学院に通うために週末と平日の夜に休暇を取得する、資格試験の直前に集中的に勉強するために2週間の休暇を取得するといった使い方が想定されます。
「教育訓練短時間勤務等制度」:所定労働時間の短縮と所定外労働時間の免除を組み合わせた制度です。
毎日1〜2時間早く退社して資格スクールに通う、残業を免除して夜間の講座に通うといった、働きながら継続的に学ぶための環境を整えます。
完全に休むのではなく、勤務時間を調整することで、業務への影響を最小限に抑えながら学びを支援できるのが特徴です。
自発的職業能力開発訓練と併給OK
同じ「人への投資促進コース」の中に「自発的職業能力開発訓練」という制度もありますが、両者は対象が異なるため併給が可能です。
自発的職業能力開発訓練:訓練経費(受講料、教材費など)に対する助成
長期教育訓練休暇等制度:賃金助成(休暇取得中の賃金)と制度導入助成
例えば、従業員が社会人大学院に通う場合、学費に対しては自発的職業能力開発訓練の経費助成を活用し、休暇取得中の賃金に対しては長期教育訓練休暇制度の賃金助成を活用するといった組み合わせが可能です。
2. いくらもらえる?【助成額と助成率】
(以下、人への投資促進コースのご案内P4、P5、P25より引用)
長期教育訓練休暇等制度では、「制度導入助成」と「賃金助成」の2種類の助成を受けることができます。
制度導入助成
新たに制度を導入した場合に支給される助成です。
助成額:20万円(1事業主1回限り)
賃金要件等を満たす場合:+4万円(合計24万円)
注意点:「長期教育訓練休暇制度」と「教育訓練短時間勤務等制度」の両方を同時に導入しても、制度導入助成は1回限りです。どちらか一方の制度を導入した時点で20万円が支給され、後日もう一方の制度を追加しても、追加の制度導入助成は支給されません。
賃金助成(長期教育訓練休暇制度のみ)
長期教育訓練休暇制度を利用して、従業員が有給休暇を取得した場合に支給される助成です。
助成額(中小企業):1人1時間あたり1,000円
支給条件
賃金助成が支給されるのは、有給の長期教育訓練休暇を付与し、かつ、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の額以上を支払っている場合です。
つまり、無給の休暇や、通常の賃金より低い額しか支払わない場合は、賃金助成の対象外となります。
限度時間
1人あたりの賃金助成対象時間数の上限は1,600時間です。
例えば、1日8時間勤務の従業員が30日間の有給休暇を取得した場合、240時間(8時間×30日)となり、限度時間内に収まります。
教育訓練短時間勤務等制度の助成
教育訓練短時間勤務等制度の場合、賃金助成はありません。制度導入助成(20万円)のみが支給対象となります。
これは、短時間勤務等制度では従業員が休暇を取得するのではなく、勤務時間を調整するだけであり、賃金の支払いも通常通り行われるためです。
賃金要件とは
助成額が加算される「賃金要件等を満たす場合」とは、以下を満たした場合です。
賃金要件:毎月決まって支払われる賃金について、訓練終了後に5%以上増加させていること
ただし、中小企業に対する長期教育訓練休暇制度の賃金助成は、あらかじめ高額助成(1,000円)が適用されるため、賃金要件を満たす必要はありません。
賃金要件が関係するのは制度導入助成の加算部分(20万円→24万円の+4万円)です。この加算を受けるには、訓練終了後に従業員の賃金を5%以上引き上げる必要があります。なお、長期教育訓練休暇等制度の賃金要件は、比較方法や申請期間等が他の訓練メニューと異なるため、具体的な申請にあたっては「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内」のパンフレットを確認するか、管轄の労働局にお問い合わせください。
3. 金額入り事例
ここでは、実際の事例を元にした中小企業の具体的な活用モデルを紹介します。
助成を受けられたケース
ケース1:従業員の社会人大学院進学支援(従業員20名のコンサルティング会社A社)
背景:
マーケティング部門の30歳の社員から「働きながら経営学修士(MBA)を取得したい」と相談を受けた。週末と平日夜間の大学院プログラム(2年制)に通いたいが、試験前や論文作成時期にはまとまった休暇が必要とのこと。優秀な人材であり、会社としても学びを支援したいと考えた。
実施内容:
・長期教育訓練休暇制度を就業規則に規定(30日以上の有給休暇を取得可能)
・1年目に試験前の集中学習のため15日間の連続有給休暇を付与
・2年目に論文執筆のため20日間の連続有給休暇を付与
・自発的職業能力開発訓練も併用し、学費の一部を会社が負担
受け取った助成金:
1年目
・賃金助成:1,000円×8時間×15日=12万円
・制度導入助成:20万円
・小計:32万円
2年目
・賃金助成:1,000円×8時間×20日=16万円
合計:48万円
結果:
従業員は無事にMBAを取得。会社は2年間で合計35日分の賃金(約280万円相当)を支払ったが、助成金で28万円が戻ってきた。さらに制度導入助成20万円も受けられ、実質的な賃金負担を大きく軽減できた。MBA取得後、従業員は新規事業立ち上げのリーダーとして活躍しており、投資に見合う成果が得られた。
ケース2:複数名の資格取得支援で人数制限撤廃のメリットを活用(従業員35名の建設会社B社)
背景:
技術職の社員3名が、それぞれ「一級建築士」「施工管理技士」「建築設備士」の資格取得を目指していた。試験直前に集中的に勉強する時間が必要だが、年次有給休暇だけでは足りない。以前は賃金助成が2人までしか受けられなかったため躊躇していたが、人数制限が撤廃されたことを知り、制度導入を決断。
実施内容:
・長期教育訓練休暇制度を就業規則に規定
・3名それぞれに試験直前の1か月間、週3日(各8時間)の有給休暇を付与
・合計:各人12日×8時間=96時間
受け取った助成金:
・賃金助成:1,000円×96時間×3人=28万8,000円
・制度導入助成:20万円
・合計:48万8,000円
結果:
3名とも無事に資格試験に合格。会社は3名分の賃金(約96万円相当)を支払ったが、助成金で28万8,000円が戻ってきた。人数制限が撤廃されたおかげで、3人全員分の賃金助成を受けられた。資格取得により、従業員のスキルアップと会社の技術力向上につながった。
ケース3:短時間勤務等制度で柔軟な学びを支援(従業員15名の小売業C社)
背景:
店舗スタッフの25歳の社員が「販売士1級の資格を取りたいので、平日夜に講座に通いたい」と相談。完全に休むのではなく、週3日だけ早く退社できる仕組みがほしいとのこと。店舗運営への影響を最小限に抑えながら学びを支援したい。
実施内容:
・教育訓練短時間勤務等制度を就業規則に規定
・週3日、所定労働時間を2時間短縮(17時退社)
・所定外労働(残業)を免除
・3か月間(約40回)実施
受け取った助成金:
・制度導入助成:20万円のみ
結果:
短時間勤務等制度は賃金助成がないため、制度導入助成の20万円のみとなった。しかし、従業員は働きながら無理なく講座に通うことができ、無事に販売士1級に合格。店舗の売上向上に貢献するようになった。他の社員からも「自分も資格を取りたい」という声が上がり、学びを支援する企業風土が醸成された。
ケース4:既に休暇制度導入済みでも賃金助成を活用(従業員50名のIT企業D社)
背景:
5年前に長期教育訓練休暇制度を就業規則に導入済み。しかし、直近3年間で制度を利用した従業員は1名のみで、制度が形骸化していた。令和4年度から、既に制度を導入している企業でも、一定の条件を満たせば賃金助成を受けられることを知った。
実施内容:
・直近3事業年度の制度利用者が3人未満であることを確認
・制度導入・適用計画届を提出
・エンジニア2名が情報処理安全確保支援士の資格取得のため、各20日間の有給休暇を取得
受け取った助成金:
・賃金助成:1,000円×8時間×20日×2人=32万円
結果:
既に制度を導入していたため、制度導入助成は受けられなかったが、賃金助成は受けることができた。会社は2人分の賃金(約160万円相当)を支払ったが、助成金で32万円が戻ってきた。制度の存在を改めて従業員に周知したことで、他の従業員からも利用希望が出るようになり、制度の活性化につながった。
助成対象外となったケース
ケース1:制度届出前に休暇を付与してしまった
背景:
従業員から「来月から大学院に通いたいので休暇がほしい」と相談を受け、口頭で「30日間の有給休暇を認める」と約束。その後、助成金の存在を知り、急いで制度導入・適用計画届を提出しようとした。
なぜ対象外か:
制度導入・適用計画届の提出前に制度を導入している事業主は対象外です。既に従業員に休暇付与を約束してしまった後では、計画届を受理してもらえません。
代替案:
今回の休暇については助成対象外となりますが、今すぐに制度を就業規則に規定し、計画届を提出すれば、次回以降の休暇取得から助成を受けることができます。
ケース2:休暇が30日未満だった
背景:
従業員が資格試験の直前に15日間の有給休暇を取得。長期教育訓練休暇制度として助成を申請しようとした。
なぜ対象外か:
長期教育訓練休暇制度は、合計30日以上の休暇を付与することが要件です。15日間では要件を満たしません。
代替案:
複数回に分けて合計30日以上になるように休暇を取得してもらいましょう。例えば、試験前に15日、試験後の追加学習に15日といった形で、合計30日以上になれば対象となります。
ケース3:10日以上連続した1日単位の休暇がなかった
背景:
従業員が3か月間、毎週金曜日に1日ずつ休暇を取得(合計約13日)。さらに試験直前に集中して20日間の休暇を取得し、合計33日間となったため申請しようとした。
なぜ対象外か:
長期教育訓練休暇制度は、所定労働日において「1日単位」の長期教育訓練休暇を10日以上連続して1回以上付与することが要件です。毎週1日ずつの休暇では「10日以上連続」の要件を満たしません。
20日間の連続休暇の部分は要件を満たしていますが、この20日間だけでは合計30日以上の要件を満たさないため、対象外となります。
代替案:
連続10日以上の休暇を含む形で、合計30日以上になるように計画しましょう。例えば、15日連続の休暇と、その後10日連続の休暇を取得すれば、合計25日では足りませんが、さらに5日以上追加すれば要件を満たします。
ケース4:訓練を受けた日数が休暇日数の半分未満
背景:
従業員が30日間の有給休暇を取得したが、実際に訓練(講座受講、資格試験、キャリアコンサルティング)を受けた日数は12日だけだった。
なぜ対象外か:
職業訓練、教育訓練、各種検定またはキャリアコンサルティングを受けた日数が、長期教育訓練休暇の取得日数の2分の1以上であることが要件です。30日の休暇のうち12日しか訓練を受けていない場合、40%となり要件を満たしません。
代替案:
休暇期間中に受講する訓練の計画を事前にしっかり立てましょう。例えば、30日の休暇を取得するなら、最低でも15日以上は訓練を受ける必要があります。独学での自主学習は訓練日数に含まれないため、講座の受講日、試験日、キャリアコンサルティングの実施日を明確にしておくことが重要です。
4. 支給要件(複雑なルールを整理!)
(以下、人への投資促進コースのご案内P23、P24、P25より引用)
長期教育訓練休暇等制度の助成を受けるには、「制度導入の要件」「制度適用の要件」「事業主の要件」のすべてを満たす必要があります。
制度導入の要件(共通)
長期教育訓練休暇制度と教育訓練短時間勤務等制度のいずれの場合も、以下の要件を満たす必要があります。
1. 被保険者を対象とした制度であること
雇用保険の被保険者を対象とした制度である必要があります。
被保険者以外の労働者(雇用保険に加入していないパート・アルバイトなど)を対象に含めることは可能ですが、被保険者が対象に含まれていることが必要です。
また、対象者を限定すること(例:正社員のみ、勤続3年以上など)も、法令の範囲内であれば可能です。
2. 制度を規定した就業規則を労働基準監督署へ届け出ること
制度を規定した就業規則または労働協約を、制度施行日までに雇用する労働者に周知すること。
就業規則については、制度施行日までに管轄する労働基準監督署へ届け出たものであること。
ただし、常時10人未満の労働者を使用する事業主の場合、制度施行日までに、制度を規定した就業規則の実施について、事業主と労働者代表者(雇用するすべての労働者の代表者)による申立書を作成することでも可能です。
3. 従業員が自発的に教育訓練を受講できること
被保険者が業務命令でなく、自発的に教育訓練を受講できることが必要です。
会社が一方的に「この研修を受けるために休暇を取りなさい」と指示する形では対象外となります。あくまで従業員本人が「学びたい」と申し出て、会社がそれを支援する制度である必要があります。
長期教育訓練休暇制度の要件
制度導入時の要件
所定労働日において、30日以上の長期教育訓練休暇が可能な制度を就業規則または労働協約に制度の施行日を明記して規定するものであること。
当該制度は、労働者の自発的職業能力開発を目的として取得できる制度であることが明確なものに限ります。
日単位で取得が可能なものであること(日単位に加え、時間単位の取得が可能な制度も対象となります)。
つまり、就業規則に「30日以上の休暇を取得できる」「日単位で取得できる」「自発的職業能力開発のために利用できる」という内容を明記する必要があります。
制度適用時の要件(実際に休暇を付与する際の要件)
所定労働日において、合計30日以上の長期教育訓練休暇を付与すること。
合計30日以上であるかについては、休暇を取得した日ごとに、休暇を取得した時間を1日の所定労働時間で除して1日単位の休暇日数(少数第3位切捨て)に換算し、それらを合計した日数により、判断します。
例えば、1日8時間勤務の従業員が4時間だけ休暇を取得した場合、4÷8=0.5日とカウントされます。
所定労働日において、「1日単位」の長期教育訓練休暇を10日以上連続して1回以上付与すること。
これは非常に重要な要件です。合計30日以上の休暇を付与しても、その中に「10日以上連続した1日単位の休暇」が含まれていなければ対象外となります。
休暇取得開始日及び最終休暇取得日がいずれも制度導入・適用計画期間内であること。
最終休暇取得日が制度導入・適用計画期間を超える場合は、制度導入・適用計画期間の最終日とみなします。
職業訓練、教育訓練、各種検定又はキャリアコンサルティングを受けた日数が、長期教育訓練休暇の取得日数の2分の1以上であること。
職業訓練、教育訓練、各種検定又はキャリアコンサルティングを同日に受けた場合は、重複計上せず、1日としてカウントします。
時間単位で休暇を付与した場合、当該休暇を取得した日(暦日)を1日としてカウントします。
つまり、30日の休暇を取得したら、最低でも15日以上は実際に訓練を受けている必要があります。独学での自主学習だけでは訓練日数としてカウントされません。
賃金助成を受ける場合の追加要件
被保険者は、長期教育訓練休暇を取得する時点で、当該事業所における被保険者である期間が連続して6か月以上である必要があります。
有給の長期教育訓練休暇を付与する場合、申請事業主が当該被保険者に対して賃金(就業規則等で定めた有給の額)を適正に支払う必要があります。
さらに、賃金助成の対象となるのは、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の額以上を支払っている場合のみです。
教育訓練短時間勤務等制度の要件
制度導入時の要件
所定労働日において、30回(1日に複数回利用した場合は1回とみなす)以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除のいずれも利用することが可能な教育訓練短時間勤務等制度を就業規則または労働協約に制度の施行日を明記して規定するものであること。
当該制度は、労働者の自発的職業能力開発を目的として取得できる制度であることが明確なものに限ります。
所定労働時間の短縮は、1日につき1時間以上所定労働時間未満の範囲で1時間単位で措置できるものとすること。
つまり、「所定労働時間の短縮」と「所定外労働時間の免除」の両方を利用できる制度である必要があります。どちらか一方だけでは対象外となります。
制度適用時の要件
制度導入・適用計画期間(3年間)内に、所定労働日において、1回以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除の措置を行うこと。
教育訓練短時間勤務等制度を利用し受講する教育訓練については、同一の教育訓練機関が行う一連の15日以上の訓練を含むものであること。
例えば、資格スクールに3か月間(週2回、合計25回)通う場合、15日以上の訓練が含まれるため対象となります。
既に制度を導入している場合の取扱い
長期教育訓練休暇制度を既に導入している事業主でも、以下のいずれかを満たせば賃金助成の対象となります。
直近の3事業年度に長期教育訓練休暇制度を適用した被保険者が3人未満であること、または直近の事業年度に当該制度を適用した被保険者がいないこと。
制度の見直しを行うなど、長期教育訓練休暇制度に基づく休暇の取得者を増加するための具体的な取組を新たに事業内職業能力開発計画に規定すること。
制度はあるけれど形骸化している企業や、制度をより使いやすく改善する企業であれば、既に制度を導入していても助成対象となります。
事業主の要件
対象となる事業主の要件
雇用保険適用事業所(雇用保険被保険者が存在する事業所)の事業主であること
労働組合等の意見を聴いて事業内職業能力開発計画およびこれに基づく制度導入・適用計画届を作成し、その計画の内容を労働者に周知していること
職業能力開発推進者を選任していること
基準期間(制度導入・適用計画届の提出日の前日から起算して6か月前の日から支給申請書の提出日までの間)に、当該計画を実施した事業所において、雇用する被保険者を解雇等(事業主都合による離職)させた事業主以外の事業主であること
基準期間に、当該計画を実施した事業所において、特定受給資格者となる離職理由のうち離職区分1Aまたは3Aに区分される離職理由により離職した者の数を、当該事業所による支給申請書提出日における被保険者数で除した割合が6%を超えている(特定受給資格者として当該受給資格の決定が行われたものの数が3人以下である場合を除く)事業主以外の事業主であること
これらの共通要件については、別途「対象となる事業主」「対象とならない事業主」の記事で詳しく解説していますので、そちらをご確認ください。
[「対象となる事業主」「対象とならない事業主」の記事はこちら]
主な不支給要件
以下のような場合、助成金は支給されません。
・制度導入・適用計画届の提出前に制度を導入している事業主(ただし、既に制度を導入している場合でも、一定の条件を満たせば賃金助成は受けられます)
・訓練開始前に制度導入・適用計画届を提出していない
・就業規則を労働基準監督署に届け出ていない(または労働者代表者による申立書を作成していない)
・合計30日未満の休暇しか付与していない
・10日以上連続した1日単位の休暇を付与していない
・訓練を受けた日数が休暇日数の2分の1未満
・訓練期間中に対象労働者が退職した
・不正受給を行った事業主(過去5年以内)
5. 全体フロー(申請から受給までの流れ)
(以下、人への投資促進コースのご案内P25より引用)
長期教育訓練休暇等制度の申請から受給までは、大きく5つのステップに分かれます。特に重要なのは、従業員が休暇を取得する前に制度を整備し、計画届を提出することです。
1. 制度設計と就業規則への規定
長期教育訓練休暇制度または教育訓練短時間勤務等制度(または両方)を設計し、就業規則または労働協約に規定します。
制度には以下の内容を明記します。
長期教育訓練休暇制度の場合
・対象となる労働者(雇用保険の被保険者)
・30日以上の休暇を取得できること
・日単位で取得できること(時間単位も可能にする場合はその旨も記載)
・自発的職業能力開発を目的として利用できること
・有給とする場合は、支払う賃金の額
・休暇取得の申請手続き
・労働者への周知方法
教育訓練短時間勤務等制度の場合
・対象となる労働者(雇用保険の被保険者)
・30回以上利用できること
・所定労働時間の短縮(1日1時間以上、1時間単位)ができること
・所定外労働時間の免除ができること
・自発的職業能力開発を目的として利用できること
・制度利用の申請手続き
・労働者への周知方法
ポイント:
制度を作成したら、必ず労働者に周知しましょう。社内掲示板への掲載、社内メールでの通知、朝礼での説明など、周知した証拠を残しておくことが重要です。
2. 制度導入・適用計画届の提出(制度導入予定日の1か月前まで)
制度導入予定日の1か月前までに、管轄の都道府県労働局に以下の書類を提出します。
・制度導入・適用計画届(訓練休暇様式第1号)
・事業内職業能力開発計画
・制度を規定した就業規則の写し(労働協約の場合はその写し)
・その他必要書類
ポイント:
制度導入予定日は、就業規則の施行日と一致させる必要があります。例えば、就業規則で「令和7年4月1日から施行する」と定めた場合、制度導入予定日も4月1日となり、その1か月前(3月1日)までに計画届を提出する必要があります。
また、既に長期教育訓練休暇制度を導入している場合でも、一定の条件を満たせば賃金助成の対象となるため、その場合も計画届を提出します。
3. 就業規則の労働基準監督署への届出と従業員への周知
制度施行日までに、制度を規定した就業規則を管轄の労働基準監督署に届け出ます。
常時10人未満の労働者を使用する事業主の場合、労働基準監督署への届出の代わりに、事業主と労働者代表者による申立書を作成することでも可能です。
従業員に対して、制度の内容を周知します。
ポイント:
就業規則の届出は、制度施行日までに完了している必要があります。届出が遅れると、助成金の対象外となる可能性があります。
また、従業員への周知方法として、以下のような方法があります。
・社内掲示板への掲載
・社内メールでの全従業員への通知
・就業規則を常時確認できる場所(事務所、休憩室など)への備え付け
・朝礼や会議での説明
4. 従業員による休暇等の取得と訓練受講
従業員が自発的に教育訓練を受けるために、長期教育訓練休暇または教育訓練短時間勤務等制度を利用します。
長期教育訓練休暇制度の場合
・従業員が会社に休暇取得を申請
・会社が承認し、休暇を付与
・従業員が教育訓練を受講
・合計30日以上、かつ10日以上連続した1日単位の休暇を含むこと
・訓練を受けた日数が休暇日数の2分の1以上であること
教育訓練短時間勤務等制度の場合
・従業員が会社に制度利用を申請
・会社が承認し、所定労働時間の短縮と所定外労働時間の免除を実施
・従業員が教育訓練を受講
・同一の教育訓練機関が行う一連の15日以上の訓練を含むこと
ポイント:
休暇取得期間中または制度利用期間中は、以下の書類を保管しておきます。
・従業員からの休暇申請書(または制度利用申請書)
・会社の承認記録
・訓練を受けた日の記録(受講証明書、領収書、出席簿など)
・有給休暇の場合は、賃金台帳
また、賃金助成を受ける場合は、休暇取得開始時点で被保険者である期間が連続して6か月以上である必要があります。
5. 支給申請(休暇の最終取得日の翌日から2か月以内)
休暇または制度利用の最終日の翌日から2か月以内に、管轄の都道府県労働局に支給申請書を提出します。
長期教育訓練休暇制度の場合
・支給申請書(訓練休暇様式第2号)
・訓練を受けた日の記録(受講証明書、修了証、出席簿など)
・賃金助成を申請する場合は、賃金台帳、出勤簿
・その他必要書類
教育訓練短時間勤務等制度の場合
・支給申請書(訓練休暇様式第3号)
・制度を利用した日の記録
・訓練を受けた日の記録
・その他必要書類
提出期限:休暇の最終取得日(または制度利用の最終日)の翌日から2か月以内
ポイント:
支給申請の期限は厳格です。2か月を過ぎると原則として支給されませんので、休暇終了後は速やかに書類を準備しましょう。
有給の長期教育訓練休暇を付与する事業主であって、複数人の支給対象者がいる場合は、2人目以降の支給対象者の休暇の最終取得日の翌日から2か月以内に同時に申請する方法、または各支給対象者の休暇の最終取得日の翌日から2か月以内にそれぞれ申請する方法のいずれかの方法により申請することができます。
6. よくある質問(Q&A)
(以下、人への投資促進コースのご案内P23、P24、P25より引用)
Q1. 既に休暇制度がありますが、対象になりますか?
A. 内容が要件を満たしていれば対象になります。
既存の休暇制度が、①被保険者を対象としている、②30日以上の休暇を取得できる、③日単位で取得できる、④自発的職業能力開発のために利用できる、という要件を満たしていれば、長期教育訓練休暇制度として活用できます。
ただし、制度の内容が要件を満たしていない場合は、就業規則を改定する必要があります。
また、既に制度を導入している場合、制度導入助成は受けられませんが、直近の3事業年度に制度を適用した被保険者が3人未満である場合や、制度の見直しを行う場合は、賃金助成を受けることができます。
Q2. 無給の休暇でも助成対象になりますか?
A. 制度導入助成は受けられますが、賃金助成は受けられません。
長期教育訓練休暇制度そのものは、有給でも無給でも対象となります。制度を導入すれば、20万円(要件を満たせば24万円)の制度導入助成を受けることができます。
ただし、賃金助成(1人1時間あたり1,000円)は、有給の休暇を付与し、かつ、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の額以上を支払っている場合のみ支給されます。無給の休暇や、通常の賃金より低い額しか支払わない場合は、賃金助成の対象外となります。
Q3. 複数の従業員が利用した場合、全員分の賃金助成を受けられますか?
A. 受けられます。人数制限はありません。
令和4年度から、賃金助成の対象となる従業員の人数に上限がなくなりました。以前は最大2人までしか助成を受けられませんでしたが、現在は3人でも5人でも、全員分の賃金助成を受けることができます。
ただし、1人あたりの賃金助成対象時間数の上限(1,600時間)はありますので、この範囲内での助成となります。
Q4. どのような訓練が対象になりますか?
A. 従業員が自発的に受講する職業訓練、教育訓練、各種検定、キャリアコンサルティングが対象です。
具体的には、以下のような訓練が対象となります。
・大学院(MBA、専門職大学院など)
・資格取得講座(簿記、宅建士、中小企業診断士、情報処理技術者など)
・専門学校や職業訓練校での訓練
・各種検定試験(語学検定、技能検定など)
・キャリアコンサルティング
ただし、会社が業務命令として受講を指示した訓練は対象外です。あくまで従業員が自発的に受講する訓練である必要があります。
また、訓練を受けた日数が休暇日数の2分の1以上である必要があるため、独学での自主学習だけでは対象外となります。
Q5. 自発的職業能力開発訓練と併用できますか?
A. 併用できます。
自発的職業能力開発訓練は訓練経費(受講料、教材費など)に対する助成、長期教育訓練休暇等制度は賃金助成(休暇取得中の賃金)と制度導入助成ですので、対象が異なるため併給が可能です。
例えば、従業員が社会人大学院に通う場合、学費に対しては自発的職業能力開発訓練の経費助成(45〜60%)を活用し、休暇取得中の賃金に対しては長期教育訓練休暇制度の賃金助成(1人1時間あたり1,000円)を活用するといった組み合わせが可能です。
これにより、訓練経費と賃金の両方について助成を受けることができ、従業員の学びを総合的に支援できます。
Q6. 制度導入助成は企業単位で1回限りですか?
A. はい、事業主(企業)単位で1回限りの支給となります。
制度導入助成は、長期教育訓練休暇制度と教育訓練短時間勤務等制度のいずれかを新たに導入した場合に、1事業主(企業)につき1回限り支給されます。
両方の制度を同時に導入しても、制度導入助成は20万円(要件を満たせば24万円)のみです。後日、もう一方の制度を追加しても、追加の制度導入助成は支給されません。
一方、賃金助成は、従業員が休暇を取得するたびに支給されます。複数の従業員が複数回利用しても、それぞれに賃金助成が支給されます(ただし、1人あたりの上限時間内)。
Q7. 教育訓練短時間勤務等制度は賃金助成がないのですか?
A. はい、教育訓練短時間勤務等制度は賃金助成の対象外です。
教育訓練短時間勤務等制度の場合、従業員が休暇を取得するのではなく、勤務時間を調整するだけであり、賃金の支払いも通常通り行われるため、賃金助成はありません。
制度導入助成(20万円、要件を満たせば24万円)のみが支給対象となります。
Q8. 既に制度を導入している場合、制度導入助成は受けられますか?
A. 既に制度を導入している場合、制度導入助成は受けられません。
制度導入助成は、新たに制度を導入する場合にのみ支給されます。既に長期教育訓練休暇制度または教育訓練短時間勤務等制度を導入している場合、制度導入助成は受けられません。
ただし、長期教育訓練休暇制度を既に導入している場合でも、一定の条件(直近3事業年度に適用が3人未満など)を満たせば、賃金助成は受けることができます。
7. まとめ
たとえば、経理担当の従業員から「中小企業診断士の資格を取りたいので、試験前にまとまった勉強時間がほしい」と相談を受けた場合を考えてみてください。長期教育訓練休暇制度を就業規則に規定しておけば、30日間の有給休暇を付与しても、1日8時間×30日=24万円の賃金助成でほぼ全額が戻ってきます。さらに制度を初めて導入する場合は20万円の制度導入助成も加わるため、会社の実質的な負担はごくわずかです。
また、「毎日残業があって夜間の講座に通えない」という従業員がいれば、教育訓練短時間勤務等制度を活用することで、週3日だけ2時間早く退社して資格スクールに通うといった柔軟な学び方も支援できます。
従業員が学びたいと思ったときに「うちの会社には制度がないから無理」と断るのか、「制度があるから申請してみて」と背中を押せるのかで、従業員の会社への信頼や定着率は大きく変わります。賃金助成の人数制限も撤廃されているため、3人でも5人でも全員分の助成を受けることができます。
さらに、大学院の学費など訓練経費については「自発的職業能力開発訓練」で別途助成を受けることもできるため、休暇中の賃金と学費の両方を助成金でカバーすることも可能です。
まずは、就業規則に長期教育訓練休暇制度(または教育訓練短時間勤務等制度)を規定できるかどうかを検討することから始めましょう。要件が複雑で判断が難しい場合や、就業規則の作成に不安がある場合は、お近くの都道府県労働局や、助成金に詳しい社会保険労務士へご相談されることをおすすめします。
8. 参考
厚生労働省 人材開発支援助成金ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
最寄りの都道府県労働局
厚生労働省ホームページから検索できます。
