「従業員に自分からスキルアップしてほしいが、費用負担が重くて研修に踏み出せない」
「リスキリングを進めたいのに、従業員がなかなか動いてくれない」
「人材育成にかける予算が限られていて、全員に研修機会を提供できていない」
こうした悩みを抱える経営者・人事担当者は少なくありません。実は、従業員一人ひとりが自分で申請して受講費用の最大80%を国から受け取れる制度があります。
それが「教育訓練給付金」です。会社が直接もらう助成金ではありませんが、会社が従業員にこの制度を案内するだけで、従業員の学びへのハードルを大きく下げることができます。
この記事では、教育訓練給付金の仕組みを経営者・人事担当者の視点から整理し、「会社として何ができるか」「どう従業員に案内すればいいか」を解説します。
こんな企業におすすめ!
・従業員のリスキリング・自己研鑽を後押ししたい
・人材育成にかけるコストを抑えながら、従業員のスキルアップを進めたい
・教育訓練給付金と会社側の助成金(人材開発支援助成金)の違いを整理したい
・従業員から「この制度使えますか?」と聞かれたときに正確に答えられるようにしたい
1. 教育訓練給付金とは?経営者・人事担当者が知っておくべき基本
教育訓練給付金は、雇用保険の加入者が、厚生労働大臣の指定を受けた講座を自費で受講・修了した場合に、受講費用の一部がハローワークから支給される制度です。
ポイントは、申請するのは会社ではなく、従業員本人という点です。
会社が手続きをする必要はなく、費用も会社を経由しません。従業員が自分でハローワークに申請し、自分の口座に支給されます。
給付率は受講する講座の種類によって異なり、最大80%まで受け取れます。たとえば受講料30万円の講座であれば、最大で24万円が戻ってくる計算です。
会社にとってのメリットは、直接的な費用負担がないにもかかわらず、従業員の学びを後押しできる点にあります。「学びたいが費用が出せない」という従業員の障壁を取り除くだけで、自律的なスキルアップが動き出すケースは少なくありません。
2. なぜ経営者・人事担当者が知っておくべきなのか
従業員の多くが制度を知らない
厚生労働省の雇用保険部会資料(令和7年10月)によると、令和6年度の教育訓練給付金の受給件数は、一般・特定一般・専門実践の3区分合計で約11.6万件にとどまっています。雇用保険被保険者数が約4,500万人(厚生労働省「令和6年度 雇用保険事業年報」)であることを踏まえると、支給要件を満たす在職者のうち実際に制度を活用しているのはごく一部にとどまっている実態がうかがえます。
制度を知っていれば活用できた可能性のある従業員も、存在を知らないままでいるケースが少なくありません。人事担当者が制度の概要を理解しておき、従業員からの問い合わせに答えられる状態にしておくことが、最初の一歩です。
従業員の学びへの心理的ハードルが下がる
厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」(令和7年公表)によると、自己啓発を行う上での問題点として「費用がかかりすぎる」を挙げた割合は約3割に達しています。また、会社から受けたい支援として「受講料などの金銭的援助」が正社員・正社員以外ともに第1位となっており、費用負担が学びへの主要な障壁になっている実態がデータからも確認されています。
たとえば、介護福祉士や看護師の養成課程は入学料・受講料の合計が100万円を超えることもあります。しかし専門実践教育訓練給付金を活用すれば、最大80%が支給されるため、自己負担を大幅に圧縮できます。費用面を理由に学び直しを諦めていた従業員にとって、会社からの案内はキャリア形成の転機になり得ます。
リスキリング推進の文脈でも重要
政府が掲げる「リスキリング」(デジタル化・産業構造の変化に対応した学び直し)の文脈で、教育訓練給付金は個人向けの主要な支援策のひとつです。社内でリスキリングを推進したい場合、会社側の助成金(人材開発支援助成金)と並んで、従業員個人が活用できる制度として案内しておくと、取り組みが広がりやすくなります。
3. 3つの給付金の種類と、対象になる従業員のイメージ
教育訓練給付金には「一般」「特定一般」「専門実践」の3区分があります。どの区分が使えるかは、受けたい講座がどの区分の指定を受けているかによって決まります(従業員が選ぶものではなく、講座ごとに区分が決まっています)。
一般教育訓練給付金(給付率20%、上限10万円)
簿記、英語、ITパスポート、介護職員初任者研修など、比較的短期で取得できる資格・講座が中心です。
3区分の中で最も対象講座が多く、業種を問わず幅広い従業員が活用しやすい区分です。申請は修了後に1回行うだけで完結するため、手続きの負担も少なめです。
→ 詳細:【教育訓練給付金/一般教育訓練給付金】とは?対象者・支給額・申請方法をわかりやすく解説
特定一般教育訓練給付金(給付率40%〜最大50%、上限20万円+)
宅地建物取引士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、基本情報技術者など、業務に直結しやすい資格の取得を目指す講座が対象です。
一般より給付率が高い分、受講前にキャリアコンサルティングと受給資格確認の手続きが必要です。
→ 詳細:【教育訓練給付金/特定一般教育訓練給付金】とは?対象講座・支給額・受講前手続きをわかりやすく解説
専門実践教育訓練給付金(給付率50%〜最大80%、年間上限最大64万円)
看護師・介護福祉士・保育士・社会福祉士などの国家資格養成課程、専門職大学院(MBA等)、AI・IoT分野のスキル習得講座などが対象です。訓練期間が1年以上3年以内の中長期講座が中心で、3区分の中で最も給付が手厚い制度です。受講中に6か月ごとに給付を受けられるため、長期間の学習でも家計への負担を分散できます。
→ 詳細:【教育訓練給付金/専門実践教育訓練給付金】とは?対象講座・支給額・申請手続きをわかりやすく解説
対象になる従業員の基本条件
在職中の従業員が活用するには、受講開始日時点で雇用保険に加入していること、かつ雇用保険の加入期間が通算1年以上(初回の場合) であることが必要です(専門実践は初回2年以上)。
もちろんパート・アルバイトの方でも雇用保険に加入していれば対象になります。
また、転職で入社した従業員でも、前職での加入期間と合算できるため、意外と多くの従業員が対象になります。
4. 会社としてできること・注意すべきこと
できること①:制度の周知・社内案内
最も効果的なのは、社内で制度の存在を知らせることです。
従業員への案内メールや社内掲示板での周知、人事面談でのひとこと紹介など、伝え方はシンプルで構いません。「興味がある方はハローワークやキャリアコンサルタント、社会保険労務士などに確認してみてください」という形で情報を届けるだけでも十分です。
できること②:受講スケジュールへの配慮
在職中に資格取得や長期の学び直しに取り組む従業員には、受講日のシフト調整や有給取得のサポートが後押しになります。
特に専門実践教育訓練(1〜3年)に取り組む従業員には、計画的な業務調整が学習継続の鍵になります。
注意点:会社が費用を補助すると給付額が減る場合がある
教育訓練給付金の支給額は、従業員が実際に自己負担した金額をもとに計算されます。そのため、会社が受講料の一部を補助した場合、その補助分を差し引いた実質負担額が給付計算の対象になります。
たとえば、受講料20万円の講座で会社が10万円補助した場合、給付計算の基礎となる教育訓練経費は10万円になります(一般教育訓練であれば支給額は2万円)
会社が費用補助をする場合は、給付金とのバランスを従業員と一緒に確認しておくことが重要です。
5. 会社側の制度との違い・使い分け
教育訓練給付金と混同されやすいのが、会社が申請する「人材開発支援助成金」です。両者の違いを整理しておきましょう。
| 教育訓練給付金 | 人材開発支援助成金 | |
|---|---|---|
| 申請者 | 従業員本人 | 会社(事業主) |
| 支給先 | 従業員本人の口座 | 会社の口座 |
| 対象費用 | 従業員が自費で支払った受講料 | 会社が負担した訓練費用・賃金 |
| 目的 | 従業員個人のキャリア形成支援 | 会社による人材育成への助成 |
| 主な財源 | 雇用保険(労使折半) | 雇用保険(事業主負担分) |
教育訓練給付金は「従業員が使う制度」、人材開発支援助成金は「会社が使う制度」という整理です。
ただし、両者は必ずしも排他的ではありません。
たとえば、会社が人材開発支援助成金の対象訓練として費用を負担し、従業員が教育訓練給付金を活用するケースでは、給付金の給付計算における「自己負担額」の扱いに注意が必要なため、導入前に社労士に確認しておくことをおすすめします。
人材開発支援助成金については、以下の記事でも解説しています。
→ 【人材開発支援助成金(人への投資促進コース)】全体の概要
まとめ
教育訓練給付金は、従業員が自分で申請する制度です。
会社が直接手続きするものではありませんが、会社が制度の存在を伝えるだけで、従業員の学びへの第一歩を後押しできます。
従業員一人ひとりのキャリア形成を支援しつつ、組織全体のスキルアップにつなげるきっかけとして、ぜひ社内への案内を検討してみてください。
「従業員にどう伝えればいいか」「人材開発支援助成金と組み合わせて使えるか」など、お困りの場合は、ハローワークまたは社会保険労務士(社労士)に早めに相談しましょう。

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※本記事は2026年2月時点の法令・情報に基づき作成しています。
【参照資料】
・教育訓練給付制度(厚生労働省)
・人材開発支援助成金(厚生労働省)
・教育訓練給付制度 厚生労働大臣指定教育訓練講座検索システム
・令和6年度「能力開発基本調査」結果の概要(厚生労働省、令和7年公表)
・雇用保険制度の主要指標(厚生労働省職業安定分科会雇用保険部会 第206回参考資料、令和7年10月28日)
・令和6年度 雇用保険事業年報(厚生労働省)