「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」の賃金規定制度は、賃金の計算ルールと昇給の仕組みを就業規則に明文化した中小企業事業主に対して、国が40万円を助成する制度です。
この記事では、賃金規定制度の要件・助成額・申請の流れを具体的に解説します。
こんな企業におすすめ!
・従業員から「給与がどう決まっているのかわからない」と言われたことがある
・パートや契約社員と正社員で別々の給与体系を使っており、整理したいと考えている
・定期昇給の仕組みがなく、昇給をするかどうかが毎年の経営判断任せになっている
1. 賃金規定制度とは?
賃金規定制度とは、給与の計算ルールを明文化した規定(賃金規定)と、誰がいくらもらえるかを一覧にした表(賃金表)をセットで整備し、毎年自動的に給与が上がる定期昇給の仕組みを導入する取り組みです。
具体的にイメージすると、賃金規定は「うちの会社では、基本給をこういうルールで計算します」という社内のルールブックです。
賃金表は「パートの時給は勤続1年目は1,050円、2年目は1,100円、リーダー職は1,200円」といった形で、雇用形態・勤続年数・役職・資格などに応じた給与の一覧を表にしたものです。
この2つがセットで就業規則に明文化され、かつ毎年自動的に昇給する仕組みが整っていることが、この制度の導入条件です。
なお、賃金表は1つである必要はありません。雇用形態によって賃金水準に差がある場合など、複数の賃金表に分けることも認められています。
2. いくらもらえる?
助成額は40万円です。
賃金要件(整備計画期間中に対象従業員の賃金を一定率以上引き上げること)を達成した場合は50万円に増額されます。
| メニュー | 内容 | 助成額 |
|---|---|---|
| 賃金規定制度 | 賃金規定と賃金表を整備し、定期昇給の仕組みを導入する(中小企業事業主のみ対象) | 40万円(賃金要件達成で50万円) |
| 諸手当等制度 | 資格手当・家族手当・退職金・賞与などを新設する | 40万円(賃金要件達成で50万円) |
| 人事評価制度 | 評価結果が賃金に反映される人事評価制度を導入する | 40万円(賃金要件達成で50万円) |
| 職場活性化制度 | メンター制度・従業員調査(エンゲージメントサーベイ)・1on1ミーティングのいずれかを導入する | 20万円(賃金要件達成で25万円) |
| 健康づくり制度 | 希望する従業員に人間ドックを受診させる制度を導入する | 20万円(賃金要件達成で25万円) |
| 業務負担軽減機器等 | 従業員の直接的な作業負担を軽減する機器・設備等を導入する | 導入費用の1/2(上限150万円)※賃金要件達成で上限187.5万円または225万円 |
賃金規定制度は、他の雇用管理制度(諸手当等制度・人事評価制度・職場活性化制度・健康づくり制度)や業務負担軽減機器等と組み合わせて申請することができます。
複数の制度を同時に導入した場合の雇用管理制度の助成額上限は80万円(賃金要件達成で100万円)
業務負担軽減機器等と組み合わせた場合は最大230万円(賃金要件達成で最大325万円)まで受け取ることができます。
3. 活用事例
事例1:賃金表を新設して定着率が改善したケース
これまで給与は採用時の交渉で決まり、勤続年数が長くても給与がほとんど変わらない状態が続いていた。
雇用形態・勤続年数・役職に対応した賃金表を新設し、毎年4月に一定額が昇給する定期昇給の仕組みを就業規則に明記した。
制度導入後、頑張れば給与が上がる見通しが立つようになり、評価時離職率が目標を達成し、40万円を受給した。
事例2:求人票に具体的な昇給額を記載できるようになり採用力が上がったケース
求人票に「昇給あり」と記載していたものの、昇給のルールが就業規則に書かれていなかった。
資格と勤続年数に対応した賃金表を新設し、毎年4月に定額昇給する仕組みを就業規則に明文化。
求人票に具体的な昇給額を記載できるようになり、応募数が増加。評価時離職率も目標を達成し、40万円を受給した。
事例3:賃金表を作ったが定期昇給の仕組みがなく申請できなかったケース(失敗例)
すでに簡易的な賃金表を運用していた事業所が賃金規定制度の申請を試みたケース。
既存の賃金表には職種別の時給が一覧化されていたが、定期昇給の仕組みが含まれておらず要件を満たさなかった。
※既存の賃金表があっても、定期昇給の仕組みが含まれていなければ要件を満たしません。
定期昇給の仕組みを含む形に全面的に改定し、就業規則に明文化することで「改定」として申請することができます。既存制度があるからといって申請を諦めず、要件を満たす状態に整え直すことを検討しましょう。
4. 支給要件
賃金規定制度の申請にあたっては、以下の要件をすべて満たす必要があります。
事業主の要件
- 中小企業事業主であること。
賃金規定制度は中小企業事業主のみが対象です。 - 雇用管理制度等整備計画を都道府県労働局長に提出し、認定を受けた事業主であること。
計画書の認定を受ける前に制度を導入してしまうと、要件を満たさず申請できなくなります。 - 計画の認定申請日から計画期間の末日までの間、同一の労働者を最低1名は対象労働者として継続して雇用していること。
計画期間中に対象労働者が全員退職してしまった場合は申請できません。 - 計画開始日の前日から起算して6か月前から計画期間の末日までの期間、雇用する雇用保険被保険者を事業主都合で解雇等していないこと。
この期間中に事業主都合での解雇があった場合、助成金は受給できません。 - 離職者がいる場合、計画期間開始日の前日から6か月前から申請日までの間に、倒産・解雇等の会社都合による離職者数が、計画書提出日時点の被保険者数の6%を超えていないこと(特定受給資格者となる離職理由の被保険者が3人以下の場合を除く)。
たとえば計画書提出日時点の被保険者数が10人の場合、会社都合の離職者が1人以内であれば要件を満たします(6%=0.6人→切り捨てで0人のため、実質3人以下の場合を除くという条件が適用されます)。 - 過去に以下の助成金を受給している場合、最後の支給決定日の翌日から起算して3年間が経過していること。
・人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース/目標達成助成)
・人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)
・人事評価改善等助成金(制度整備助成および目標達成助成)
・建設労働者確保育成助成金(雇用管理制度助成コース)など - 計画開始日までに、対象事業所ごとに「雇用管理責任者」を選任し、従業員に周知していること。
雇用管理責任者とは、雇用管理の改善への取り組みや従業員からの相談対応など、雇用管理の改善に関する事項を管理する担当者のことです。氏名を社内に掲示する、社内メール等で周知するといった方法で周知します。
制度の要件
- 対象事業所における全ての対象労働者を適用対象労働者とする制度であること。
一部の従業員だけを対象とした制度は認められません。 - 賃金規定および賃金表がいずれも完備されている状態にあること。
賃金規定と賃金表はどちらか一方だけでは不十分です。両方が整備されている必要があります。 - 年齢・勤続年数・能力等と連動して賃金が上昇する定期昇給の仕組みが導入されていること。
毎年自動的に昇給する仕組みが就業規則に明記されていることが必要です。 - 適用対象労働者の賃金の額の引き下げを行う等、本助成金の趣旨・目的に反する内容ではないこと。
制度導入を口実に実質的な賃金カットを行うことは認められません。 - 支給申請日において当該賃金規定を継続して運用している事業主であること。
申請時点でも制度が実際に運用されていることが必要です。 - 新たに導入するものであること。
計画書提出前にすでに費用の支払いが発生している場合や、過去に導入していた制度と同様のものを再度導入する場合は、新たな導入とは認められません。ただし、既存の賃金規定や賃金表が要件の一部を満たしていない状態から、要件を全て満たす状態に改定する場合は「改定」として対象になります。
離職率の要件
評価時離職率算定期間(計画期間終了後12か月間)において、離職率の目標を達成していること。
目標値は事業所の規模によって異なります。
従業員1〜9人の事業所:計画時離職率と同水準以下(現状維持でOK)
従業員10人以上の事業所:計画時離職率から1ポイント以上の低下
いずれの規模でも、評価時離職率が30%以下であることが条件です。
なお、計画時離職率がすでに0%の場合や、目標値を計算した結果が0%を下回る場合は、評価時離職率を0%とすることが目標となります。
5. 申請の流れ
STEP1. 雇用管理制度等整備計画の作成・提出
賃金規定制度の導入内容と計画期間(3か月以上1年以内)を記載した「雇用管理制度等整備計画書(様式第a-1号)」と「導入する賃金規定制度の概要票(様式第a-1号別紙1)」を作成し、計画開始日の少なくとも1か月前までに、かつ6か月より前にならないよう(つまり早すぎてもだめ)、本社所在地を管轄する都道府県労働局に提出します。計画書には計画時離職率も記載します。
提出方法は窓口への持参・郵送・電子申請のいずれかで行えます。郵送の場合は期限までに到達している必要があります。
STEP2. 計画の認定
提出した計画書の内容が適切と認められた場合、都道府県労働局から認定通知書が交付されます。計画期間の開始日が近づいても労働局から連絡がない場合は、提出先の労働局に確認してください。認定が確認できるまで、就業規則の改定や賃金の支払いを始めてはいけません。
STEP3. 賃金規定制度の導入・実施
認定を受けた計画に基づき、賃金規定と賃金表を整備し、労働協約または就業規則に明文化します。常時10人以上の労働者を使用する事業主は、就業規則を改定したら速やかに労働基準監督署に届け出ることが必要です。
賃金規定制度の実施日は、制度の導入を経て、制度に基づく賃金を実際に支払った日です。
STEP4. 評価時離職率算定期間(12か月間)
計画期間終了後、12か月間の離職率(評価時離職率)を測定します。離職率の目標を達成していることが、支給申請の前提条件です。
STEP5. 支給申請
評価時離職率算定期間の末日の翌日から2か月以内に、支給申請書と必要書類を都道府県労働局に提出します。この期限を過ぎると申請が受け付けられなくなります。
主な提出書類は以下の通りです。
・支給申請書(様式第a-6号)
・導入した賃金規定制度の概要票(様式第a-6号別紙1)
・対象労働者名簿(様式第a-6号別紙7)
・制度導入後の賃金規定および賃金表
・事業所内への周知を行ったことが確認できる書類
・適用対象労働者の賃金台帳(所定の月分)
・適用対象労働者の出勤簿(所定の月分)
・適用対象労働者の労働条件通知書または雇用契約書の写し
・離職証明書等(評価時離職率算定期間の離職理由が確認できる書類)
・支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
6. よくある質問
Q. パートと正社員で別々の賃金表を作ることはできますか?
可能です。
雇用形態によって賃金水準に差がある場合など、1つの賃金表として整備することが難しい場合は、複数の賃金表によることとしても差し支えないとされています。ただし、それぞれの賃金表に定期昇給の仕組みが含まれていることが必要です。
Q. すでに賃金表がある場合、この制度は使えませんか?
既存の賃金表があっても申請できる場合があります。
既存の賃金規定や賃金表が要件の一部を満たしていない状態(例:定期昇給の仕組みがない、賃金表はあるが賃金規定がない)から、要件を全て満たす状態に改定する場合は「改定」として対象になります。
Q. 定期昇給の金額や率はいくらでもよいですか?
金額や率について法令上の下限は定められていません。
ただし、助成金の趣旨・目的に反する内容(昇給額が実質ゼロに等しいものなど)は認められない可能性があります。実態を伴った昇給の仕組みとして整備することが必要です。
Q. 計画期間中に対象労働者が退職してしまった場合はどうなりますか?
対象労働者が1名でも継続して雇用されていれば、他の対象労働者が退職しても申請自体は可能です。ただし、対象労働者が全員退職してしまった場合は申請できなくなります。
Q. 計画期間中に離職率の目標を達成できなかった場合、再申請はできますか?
目標未達成のため今回の計画については助成金は受給できませんが、再度新たな計画を提出して制度を改定し、要件を満たした場合には改めて申請することはできます。
その際、前回の計画に係る支給決定日または不支給決定日の翌日以降でなければ新たな計画を提出できない点に注意が必要です。
7. まとめ
賃金規定制度は、給与の決め方を就業規則に明文化し、定期昇給の仕組みを整えた中小企業事業主に40万円(賃金要件達成で50万円)を助成する制度です。
毎年の昇給額が口約束や経営者の判断任せになっている会社、賃金表がなく採用時の給与提示に困っている会社にとって、制度整備のきっかけになります。
すでに簡易的な賃金表がある場合でも、定期昇給の仕組みが含まれていなければ「改定」として申請できる可能性があります。
また、制度を導入するだけでは助成金は支給されません。
計画期間終了後の12か月間で離職率の目標を達成することが受給の条件です。まずは自社の直近12か月間の離職率と、現在の賃金規定・賃金表の整備状況を確認することから始めましょう。
要件の詳細や自社の状況への当てはめ方については、管轄の都道府県労働局またはハローワーク、もしくは社会保険労務士にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください
【参照資料】
厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」のご案内
👉 厚生労働省:人材確保等支援助成金 公式ページ(申請書・要領のダウンロードはこちら)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07843.html
※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。
助成金の支給要件は頻繁に変更されるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。