「スキルアップしたいけど、業務が忙しくて学ぶ時間が取れない」という声が社内から上がっている。資格取得や学び直しに意欲のある従業員がいるが、会社として後押しできる仕組みがない。
そんな状況を変えるために就業規則に「学習のための休暇制度」を整備した企業に対して助成金が支給される制度があります。
「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース)」です。多くの助成金が「研修費用や訓練中の賃金を補助する」ものであるのに対し、このコースは「学びやすい社内環境を制度として整えること」自体を支援します。研修費用ではなく、制度整備そのものへの支援です。
こんな企業におすすめ!
・資格取得や大学院での学び直しを希望する従業員がいるが、休みを取りにくい環境になっている
・社員のリスキリングを推進したいが、業務時間外の学習を会社としてどう支援するか悩んでいる
・就業規則に教育訓練に関する休暇制度が何もなく、一度整備しておきたい
・人材育成への取り組みを制度として明文化し、採用活動にも活かしたい
・長期の学び直し(大学院・資格学校など)を希望する従業員の業務代替をどう手当てするか悩んでいる
1. 学習のための休暇制度とは?
この助成金は「従業員が自発的に学べる休暇制度や時短勤務制度を就業規則に整備し、実際に適用した企業」に対して助成する制度です。
つまり「勉強したい人は有給で休んでいいですよ」という仕組みを会社のルールとして整え、実際に使った人がいれば助成金が受け取れる、ということです。
受講する講座や資格の内容はあくまで従業員本人が選びます。
会社が「この研修を受けるように」と業務命令で指定するものではなく、社員が「簿記2級の勉強がしたい」「大学院でMBAを取りたい」と自分の意思で決めた学習に対して休暇を付与する仕組みです。
多くの助成金が「研修費用や訓練中の賃金を補助する」ものであるのに対し、この助成金は「学びやすい社内環境を制度として整えること」自体を支援します。
例えば、資格取得のための有給休暇制度、大学院通学のための長期休暇制度、夜間スクールに通うための時短勤務制度——こうした仕組みを就業規則に新たに設けた会社に助成金が支給されます。
3つの制度があります。
5日以上の有給学習休暇を導入する「①教育訓練休暇制度」、30日以上の長期休暇を導入する「②長期教育訓練休暇制度」、終業時間の繰り上げ制度を導入する「③教育訓練短時間勤務等制度」です。②と③は令和9年3月末までの期間限定です。
2. 3つの制度と使い分け
3制度の特徴をまとめると以下のとおりです。
| 制度 | 対象 | 期間 | 制度導入助成 |
|---|---|---|---|
| ①教育訓練休暇制度 | 3年間で5日以上の有給学習休暇 | 恒常 | 30万円 |
| ②長期教育訓練休暇制度 | 30日以上の長期学習休暇 | 〜令和9年3月 | 20万円+賃金助成 |
| ③教育訓練短時間勤務等制度 | 30回以上の時短勤務・所定外労働免除 | 〜令和9年3月 | 20万円 |
①は最もシンプルで使いやすく、まず就業規則に学習休暇の仕組みを整えたい企業向きです。
②は大学院や長期の資格スクールへの通学を制度として認める場合に活用できます。
③は休暇を取るほどではないが終業後に通学させたい場合に使える制度です。
① 教育訓練休暇制度
3年間で5日以上取得できる有給の教育訓練休暇制度を就業規則に定め、実際に取得させた場合に助成される制度です。
年次有給休暇とは別に設ける必要があります。
従業員が業務命令ではなく自発的に、外部の教育訓練・職業訓練・各種検定・キャリアコンサルティングのいずれかを受けるために取得できる休暇として規定します。
② 長期教育訓練休暇制度(〜令和9年3月)
30日以上の長期教育訓練休暇制度を就業規則に定め、実際に取得させた場合に助成される制度です。大学院での学び直しや長期の資格取得など、まとまった期間の学習を想定した制度です。
有給で付与した場合は賃金助成(1人1時間あたり1,000円、最大1,600時間分)も受けられます。
令和8年4月からは、長期休暇中の業務代替に対する「新規採用助成」「職務代行助成」が中小企業限定で新設されました。
③ 教育訓練短時間勤務等制度(〜令和9年3月)
所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除が30回以上取得できる制度を就業規則に定め、実際に適用した場合に助成される制度です。
夜間の学校や資格スクールに通うために終業時間を早めるなど、休暇を取るほどではないが勤務時間を柔軟にしたい場合を想定した制度です。
3. いくらもらえる? 助成額(中小企業)
| 制度 | 制度導入・実施助成 | 賃金助成 | 新規採用・職務代行助成 | 賃上げ等加算 |
|---|---|---|---|---|
| ①教育訓練休暇制度 | 30万円 | なし | なし | +6万円 |
| ②長期教育訓練休暇制度 | 20万円 | 1,000円/時間(上限1,600時間) | あり(中小企業のみ) | +4万円(制度導入分) |
| ③教育訓練短時間勤務等制度 | 20万円 | なし | なし | +4万円 |
制度導入・実施助成は1事業主につき1回限りです。
①〜③はそれぞれ独立した制度のため、要件を満たせば複数の制度を同時に導入・申請することができます。
例えば、資格スクールに通うために③で終業時間を繰り上げ、試験直前のまとまった勉強期間には①で有給の学習休暇を取得する、といった組み合わせ方もできます。
「長期教育訓練休暇制度」の新規採用助成・職務代行助成(令和8年4月新設・中小企業のみ)
「長期教育訓練休暇制度」のみに存在する助成で、有給の長期教育訓練休暇を付与した際に、業務を代替する体制を整えた事業主に対して追加で助成されます。
新規採用助成(休暇取得者の代替として新たに雇い入れまたは派遣受入した場合)
| 業務代替期間 | 助成額 |
|---|---|
| 30日以上90日未満 | 27万円 |
| 90日以上180日未満 | 45万円 |
| 180日以上 | 67万5千円 |
職務代行助成(既存の従業員に業務代替手当を支払った場合)
業務代替手当の75%(月上限16万円、最大10か月分)
4. 活用事例
事例1:①教育訓練休暇制度を導入した小売業
従業員20人の小売業が、就業規則に3年間で5日以上取得できる有給の教育訓練休暇制度を新設した。
制度導入後、販売スタッフ1人が販売士の資格取得講座(5日間)を受講するために休暇を取得した。
受給額
- 制度導入・実施助成:30万円
事例2:②長期教育訓練休暇制度を導入した製造業(賃金助成あり)
従業員50人の製造業が、有給の長期教育訓練休暇制度(30日以上取得可能)を就業規則に新設した。
制度導入後、技術担当の正社員が大学院のMBAプログラムに通学するため、所定労働日に合計60日(480時間分)の有給休暇を取得した。
受給額
- 制度導入・実施助成:20万円
- 賃金助成:48万円(480時間×1,000円)
- 合計:68万円
事例3:②長期教育訓練休暇制度(新規採用助成あり)
同じ製造業が、長期休暇中の業務代替として新たにパートを90日間雇い入れた。
追加受給額
- 新規採用助成:45万円(90日以上180日未満)
- 合計(事例2と合算):113万円
事例4:③教育訓練短時間勤務等制度を導入したサービス業
従業員30人のサービス業が、所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除が取得できる制度を就業規則に新設した。
制度導入後、営業担当の正社員が夜間の宅建士スクール(全30日間のコース)に通うため、週3回の終業時間の繰り上げを30回以上取得した。
受給額
- 制度導入・実施助成:20万円
5. 支給を受けるための主な要件
①教育訓練休暇制度の適用要件
- 制度導入・適用計画期間(3年間)内に、企業全体の被保険者数に応じた最低人数の従業員にそれぞれ5日以上の有給教育訓練休暇を付与し、実際に取得させること
最低適用被保険者数は以下のとおりです。
- 被保険者数100人以上の企業:5人以上
- 被保険者数100人未満の企業:1人以上
休暇取得日には、従業員が事業主以外の教育訓練・職業訓練・各種検定・キャリアコンサルティングのいずれかを実際に受けていることが必要です。
また、休暇取得日に賃金を適正に支払うことが必要です。
②長期教育訓練休暇制度の適用要件
- 所定労働日において合計30日以上の長期教育訓練休暇を付与すること
合計30日以上かどうかは、取得した時間数を1日の所定労働時間で割って日数換算して判断します。
- 1日単位の長期教育訓練休暇を10日以上連続して1回以上付与すること
時間単位の取得のみでは要件を満たしません。最低1回は10日以上連続した日単位の取得が必要です。
- 休暇取得開始日および最終休暇取得日がいずれも制度導入・適用計画期間内であること
- 職業訓練・教育訓練・各種検定またはキャリアコンサルティングを受けた日数が、休暇取得日数の2分の1以上であること
例えば30日間休暇を取得した場合、そのうち15日以上は実際に学習機関で訓練等を受けている必要があります。
なお、休暇を取得する時点でその事業所における被保険者期間が連続して6か月以上必要です。
③教育訓練短時間勤務等制度の適用要件
- 制度導入・適用計画期間(3年間)内に、所定労働日において1回以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除の措置を行うこと
- 制度を利用して受講する教育訓練は、同一の教育訓練機関が行う一連の15日以上の訓練を含むものであること
6. 申請の流れ
3制度いずれも、就業規則に制度を規定する前に計画届を提出することが必要です。計画届の提出前に就業規則に制度を規定してしまった場合は助成対象外となります。
STEP1:社内準備
職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定・周知を行います。
STEP2:計画届の作成・提出
「制度導入・適用計画届(訓練休暇様式第1号)」を主たる事業所を管轄する都道府県労働局へ提出します。提出期間は制度導入予定日の6か月前から1か月前までです。
STEP3:制度の導入(就業規則への規定・周知)
計画届の受付後、就業規則または労働協約に制度の施行日を明記して規定します。常時10人以上の事業所は、制度施行日までに就業規則を労働基準監督署へ届け出ることが必要です。
STEP4:制度の適用
就業規則に規定した制度に基づき、実際に従業員に休暇や時短勤務を付与します。
STEP5:支給申請
支給要件を満たした後、「支給申請書(訓練休暇様式第4-1号)」を主たる事業所を管轄する労働局へ提出します。
②長期教育訓練休暇制度で新規採用助成・職務代行助成または賃金助成を申請する場合は、以下の書類を追加で提出します。
- 新規採用助成:新規採用助成支給申請書(訓練休暇様式第4-2号)
- 職務代行助成:職務代行助成支給申請書(訓練休暇様式第4-3号)
- 賃金助成:賃金助成の内訳(訓練休暇様式第6号)
申請タイミングについて(令和8年4月改正)
従来は制度導入から3年が経過した後でなければ申請できませんでしたが、令和8年4月の改正により、制度導入から6か月が経過し支給要件を満たした時点で申請できるようになりました。
例:制度導入日が令和8年5月1日の場合
令和8年11月2日以降、支給要件を満たした時点で申請可能(3年を待つ必要なし)
7. Q&A
Q1. 従業員が休暇を取って何を勉強してもよいですか?
原則として、従業員が自発的に受講する教育訓練であれば、現在の職務に関連しないものや職業に間接的に必要な知識・技能であっても幅広く対象になります。
ただし、趣味・教養を目的とするもの(日常会話程度の語学習得など)、通常の事業活動として遂行されるもの(経営方針の説明、QCサークル活動など)、法令で義務づけられた講習(労働安全衛生法の特別教育など)は対象外です。
Q2. 既に有給の教育訓練休暇制度を導入している場合は申請できますか?
残念ながら、①教育訓練休暇制度については、既に有給または無給の教育訓練休暇制度(長期教育訓練休暇制度を含む)を導入済みの事業主は助成対象外です。
②長期教育訓練休暇制度については、既に制度を導入している場合でも、直近3事業年度に適用した被保険者が3人未満であること、または制度の見直しを行うなど取得者増加のための具体的な取り組みを新たに事業内職業能力開発計画に規定することで対象になる場合があります。
Q3. 複数の事業所を持つ場合、一部の事業所だけ導入できますか?
残念ながら、この助成金の申請単位は事業主(企業)単位です。
複数の事業所を設置している場合は、全ての事業所の就業規則に制度を規定し、全ての事業所の就業規則を労働基準監督署に届け出る必要があります。
Q4. ①教育訓練休暇制度と②長期教育訓練休暇制度を同時に申請できますか?
はい、可能です。
両制度の支給要件をそれぞれ満たす場合、同時に申請できます。
その場合、①の「制度導入・実施助成(30万円)」と②の有給付与に対する「賃金助成」の両方が支給されます。ただし②の「制度導入・実施助成(20万円)」は支給されません。
8. まとめ
教育訓練休暇等付与コースは、従業員が自発的に学べる社内環境を制度として整備することへの助成です。
研修費用が戻ってくるわけではありませんが、就業規則に休暇制度を明記することで従業員の学習意欲を引き出す仕組みを作り、その整備に対して助成が受けられます。
3つの制度の中で最も使いやすいのは①教育訓練休暇制度です。
100人未満の企業であれば、1人に5日以上の有給休暇を付与するだけで30万円が支給されます。まだ就業規則に教育訓練に関する休暇制度がない企業であれば、整備のきっかけとして活用できます。
大学院や長期の資格スクールへの通学を支援したい場合は②長期教育訓練休暇制度が対象になりますが、令和9年3月末までの期間限定です。活用を検討するなら早めに計画届の準備を進めましょう。
まず自社の就業規則に教育訓練に関する休暇制度があるかどうかを確認し、なければ①の導入から検討を始めることが最初の一歩です。要件の確認や就業規則の整備でお困りの場合は、都道府県労働局・ハローワーク、または社会保険労務士にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください
※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。助成金の支給要件は変更されることがあるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)(PL080408開企02)」
厚生労働省「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース)支給要領(令和8年4月8日版)」