クラウドシステムを導入したが、社内で体系的に教育できる体制が整っていない。現場一筋だったベテラン社員に管理部門の仕事を覚えてもらいたいが、OJTだけでは体系的なスキルが身につくか不安だ。
そんな場面で活用できる制度が「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の中高年齢者実習型訓練」です。
令和8年4月に新設されたメニューで、45歳以上の従業員を対象に、OJTとOFF-JTを組み合わせた2か月以上の訓練を実施した場合に、研修費用の最大75%とOJT実施助成として10万円が支給されます。認定実習併用職業訓練が15歳以上45歳未満の若手を対象とするのに対し、中高年齢者実習型訓練は45歳以上のベテラン層の職務転換や新しいスキルの習得を支援します。
こんな企業におすすめ!
・現場スタッフをベテランになったタイミングで管理・監督業務に転換させたい
・中途採用した45歳以上の従業員に体系的なOJTと外部研修を組み合わせて育成したい
・長年のキャリアを活かしつつ、新しい分野のスキルを上乗せしてもらいたい
1. 中高年齢者実習型訓練とは?
中高年齢者実習型訓練とは、訓練開始日において45歳以上の被保険者に対し、OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練を2か月以上実施した場合に助成を受けられるメニューです。
令和8年4月に新設されました。
例えば、50代の事務担当者が新しく導入された会計システムとデータ分析業務を担えるよう、外部スクールでの座学と社内でのOJTを2か月以上組み合わせて実施するようなケースが典型的な活用例です。
認定実習併用職業訓練が厚生労働大臣の認定を必要とするのに対し、中高年齢者実習型訓練は大臣認定が不要です。
また、有期実習型訓練が正社員転換を必須要件とするのに対し、中高年齢者実習型訓練は転換の義務はなく、在職中のベテラン層の職務転換やスキルアップを目的として広く活用できます。
ただし、訓練開始前にキャリアコンサルタント等による面談を受け、訓練への参加が必要と認められることが条件です。
2. いくらもらえる? 助成率・助成額(中小企業)
経費助成(受講料など)
| 区分 | 通常 | 賃上げ等加算時 |
|---|---|---|
| 経費助成率 | 60% | 75%(+15%) |
経費助成の上限額は、OFF-JTの訓練時間数に応じて変わります(1人1訓練あたり)。
| 訓練時間数(OFF-JT) | 上限額(中小企業) |
|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 15万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 30万円 |
| 200時間以上 | 50万円 |
OJT実施助成
OJTの実施に対して、別途以下の助成が支給されます。
| 区分 | 通常 | 賃上げ等加算時 |
|---|---|---|
| 1人1コースあたり | 10万円 | 13万円(+3万円) |
賃金助成(訓練中の賃金)
OFF-JTの実施時間に対して、以下の賃金助成が支給されます。
| 区分 | 通常 | 賃上げ等加算時 |
|---|---|---|
| 1人1時間あたり | 800円 | 1,000円(+200円) |
賃金助成は所定労働時間内に受講した時間のみが対象です。
eラーニング・通信制の注意点
中高年齢者実習型訓練のOFF-JTは、通学制または同時双方向型の通信訓練(ZoomやTeamsなどのオンラインライブ研修)に限られます。eラーニングや通信制は原則として助成対象外です。
ただし、通学制の訓練に付加的なものとして内容に連続性があるeラーニングを組み合わせる場合は、例外的に助成対象となる場合があります(その場合のeラーニング分の経費助成上限額は15万円)。
3. 活用事例
事例1:IT化対応(事務スタッフへのデジタルスキル習得訓練)
会社のシステム刷新に合わせ、事務担当の正社員(50代)に対し、外部スクールでのOFF-JT(クラウド会計・データ分析研修、計60時間、受講料15万円)と社内でのOJT(100時間)を組み合わせた3か月の訓練を実施した。
受給額の試算(通常分)
- 経費助成:9万円(15万円×60%)
- OJT実施助成:10万円
- 賃金助成:4万8千円(60時間×800円)
- 合計:23万8千円
事例2:職種転換(現場スタッフを品質管理部門へ)
製造業で長年現場業務を担ってきた従業員(55歳)を品質管理部門に転換させるにあたり、外部の品質管理専門機関でのOFF-JT(品質管理・ISO内部監査研修、計120時間、受講料30万円)と社内でのOJT(200時間)を組み合わせた5か月の訓練を実施した。
受給額の試算(賃上げ等加算あり)
- 経費助成:22万5千円(30万円×75%)
- OJT実施助成:13万円
- 賃金助成:12万円(120時間×1,000円)
- 合計:47万5千円
4. 支給要件
訓練の要件
- 職業訓練実施計画(様式第1-1号)に基づき行われる訓練であること
計画届を提出したうえで、その計画の内容に沿って実施される訓練でなければなりません。計画届を提出する前に訓練を開始した場合は、助成金を受けることができません。
- OJTとOFF-JTが効果的に組み合わされ、かつ相互に密接な関連を有すること
職場での実務指導(OJT)と業務から切り離した座学・外部研修(OFF-JT)の両方を組み合わせるだけでなく、両者の内容が連動していることが必要です。全く関連のない訓練を別々に実施するだけでは対象になりません。
- 訓練実施期間が2か月以上であること
訓練の開始から終了までの期間が2か月以上必要です。1か月以上連続して訓練を実施しない期間が生じた場合、その空白期間は訓練実施期間に含まれません。
- 総訓練時間数が6か月当たりの時間数に換算して425時間以上であること
6か月換算で425時間以上のペースで実施することが必要です。例えば、訓練期間が3か月の場合は総訓練時間数が212時間以上(425時間÷2)、2か月の場合は142時間以上(425時間÷3)必要となります。なお、この時間数にeラーニングや通信制の時間数は含めることができません。
- 総訓練時間数に占めるOJTの割合が1割以上9割以下であること
OJTの時間数が多すぎても少なすぎても対象外になります。なお、この割合の計算においてもeラーニングや通信制の時間数はOFF-JTの時間数に含めません。OFF-JTとOJTのバランスを訓練カリキュラム作成時に確認しておきましょう。
- 訓練結果を適切に反映できる能力評価が、汎用性のある評価基準に基づきジョブ・カード様式3-3-1-1:企業実習・OJT用を使用して実施されること
訓練が終わった後に、汎用性のある評価基準に基づいて対象労働者の職業能力を評価し、ジョブ・カードに記録します。この評価を実施しない場合は助成対象になりません。
- 中高年齢者実習型訓練の指導および能力評価に係る担当者および責任者が選任されていること
訓練の実施と評価を担う担当者・責任者を社内で選任する必要があります。担当者と責任者は別々に選任する必要があります。
- OFF-JTについては、通学制または同時双方向型の通信訓練であり、1コースの実訓練時間数が計画届の提出時および支給申請時において10時間以上であること
「同時双方向型の通信訓練」とは、ZoomやTeamsなどを使ったリアルタイムのオンライン研修を指します。録画視聴のみのものは該当しません。また、10時間の要件は計画届の時点だけでなく支給申請時にも満たしている必要があります。
- OFF-JTについては、事業内訓練または教育訓練機関に委託して行う事業外訓練のいずれかであること
外部の研修機関への派遣(事業外訓練)でも、外部講師を招いた社内研修(事業内訓練)でも対象になります。ただし事業内訓練の場合、講師に一定の資格・経験要件(当該分野の実務経験10年以上など)があります。
- OJTについては、適格な指導者の指導のもとで行われること
適格な指導者とは、申請事業主の役員等または申請事業主に雇用されている者で、訓練実施日における出退勤時刻を確認できる者を指します。加えて、中高年齢者実習型訓練では当該職業訓練の内容について専門的な知識または技能を有する者であることも必要です。親会社や子会社の従業員は適格な指導者に該当しません。
- OJTについては、原則、対面で行うこと
OJTは原則として対象労働者と指導者が同じ場所で行う必要があります。ただし、労務管理・経理・書類作成・プログラム関連・システム開発・各種設計などの業務にかかるOJTは、テレワーク等オンラインで実施することが可能です。
- 職務に関連した専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練であること
現在または将来の職務に直結する内容であることが必要です。ただし、接遇・マナーなど「職業人として共通して必要なもの」がOFF-JT全体の半分未満であれば、助成対象として取り扱われる特例があります。
労働者の要件
- 訓練開始日において、45歳以上の労働者であること
訓練を開始する時点で45歳以上であることが必要です。44歳の従業員は対象になりません。15歳以上45歳未満の従業員については「認定実習併用職業訓練」をご検討ください。
- 次のいずれかに該当する労働者であること
- 新たに雇い入れた被保険者(雇い入れ日から訓練開始日まで3か月以内の者)
- 既に雇用している短時間等労働者であって、新たに通常の労働者に転換した者(転換日から訓練開始日まで3か月以内の者)
- 既に雇用している被保険者
45歳以上の被保険者であれば、雇用形態・在籍期間を問わず上記のいずれかに該当します。長年勤務しているベテラン社員でも、新たに採用した中高年の従業員でも対象になります。
新規採用者は雇い入れから3か月を過ぎると「新たに雇い入れた被保険者」には該当しませんが、その場合「既に雇用している被保険者」には該当するため、いずれにしても対象となります。
- キャリアコンサルタント等によるジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングを受けた者であること
訓練開始前にキャリアコンサルタント等による面談を受けることが必要です。
有期実習型訓練と異なり、国家資格を持つキャリアコンサルタントに限らず、労務・人事担当部課長などが実施することも可能です。
- キャリアコンサルティングの中で、中高年齢者実習型訓練への参加が必要と認められた者であること
面談の結果として訓練への参加が必要と認められる必要があります。面談の記録はジョブ・カードに残しておきましょう。
- 訓練実施期間中に、申請事業主の事業所において被保険者であること
訓練を受けている期間中、雇用保険の被保険者であることが必要です。訓練期間中に退職した場合は対象外となります。
- OFF-JTおよびOJTのそれぞれについて、受講時間数が実訓練時間数の8割以上であること
OFF-JTとOJTの両方について、計画した時間数の8割以上を受講していることが必要です。どちらか一方でも8割を下回った場合、その従業員分の助成金は全額対象外となります。
- 業務独占資格に係る業務(理美容等)を対象とした訓練の場合、OJTを実施する前までに当該資格を有している者であること
理美容師など、資格を持つ者しか業務を行えない職種でのOJTを実施する場合は、OJT開始前に対象労働者がその資格を取得済みである必要があります。
5. 申請の流れ
計画届の提出前にキャリアコンサルティングを実施する必要があります。対象労働者が既存の従業員か新規採用かによってタイミングが異なります。
【既存の従業員を対象とする場合】
STEP1:キャリアコンサルティングの実施(計画届の提出前)
すでに雇用している従業員を対象とする場合は、計画届を提出する前にキャリアコンサルタント等による面談を実施し、訓練への参加が必要かどうかを確認します。ジョブ・カードを活用した個別面談が必要です。
STEP2:計画届の提出
訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に「職業訓練実施計画届(様式第1-1号)」と必要書類を管轄の都道府県労働局へ提出します。1か月前を1日でも過ぎると受け付けられませんので、日程には余裕を持って動きましょう。
STEP3:訓練の実施
計画届の内容に沿ってOJTとOFF-JTを実施します。OJT実施日ごとにOJT訓練日誌の作成が必要です。支給申請日までに訓練にかかった経費を全額支払っておく必要があります。
STEP4:職業能力評価・支給申請
訓練終了後にジョブ・カードによる職業能力評価を実施します。訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請書と必要書類を労働局へ提出します。
【新たに雇い入れた従業員を対象とする場合】
STEP1:計画届の提出
まず計画届を提出します。この段階では対象労働者がまだ雇用されていない場合もあります。
STEP2:キャリアコンサルティングの実施(計画届の提出後・訓練開始前)
計画届の受付後、訓練開始前にキャリアコンサルタント等による面談を実施します。
STEP3:訓練の実施
STEP4:職業能力評価・支給申請
主な提出書類(計画届時)
- 職業訓練実施計画届(様式第1-1号)
- 対象労働者一覧(様式第3-1号)
- 中高年齢者実習型訓練に係る訓練カリキュラム(様式第16号)
- 中高年齢者実習型訓練に係る事前確認書(参考様式第2号)
- ジョブ・カード様式3-3-1-1:企業実習・OJT用(写)
6. Q&A
Q1. キャリアコンサルティングは社内の人間でも実施できますか?
はい、可能です。
中高年齢者実習型訓練のキャリアコンサルティングは、国家資格を持つキャリアコンサルタントに限らず、労務・人事担当の部課長など、キャリアコンサルティングの知識を持つ社内の担当者が実施することもできます。
有期実習型訓練では国家資格保有者が必要とされている点と異なりますので注意してください。
Q2. 正社員転換は必須ですか?
いいえ、正社員転換は必須要件ではありません。
在職中のベテラン層の職務転換やスキルアップを目的として活用でき、訓練後も同じ雇用形態のまま継続勤務する場合でも助成対象となります。
正社員転換を目的とする場合は「有期実習型訓練」をご検討ください。
Q3. 訓練途中で対象労働者が退職した場合はどうなりますか?
残念ながら、訓練実施期間中に被保険者でなくなった場合は助成対象外となります。
ただし、訓練期間を分割して申請している場合で、退職前の分割期間についてはOFF-JTとOJTの受講率がそれぞれ8割以上であれば、その期間分の助成を受けられる場合があります。詳しくは管轄の労働局にご確認ください。
Q4. 要件を満たせず中高年齢者実習型訓練として助成が受けられない場合はどうすればよいですか?
中高年齢者実習型訓練の要件を満たさない場合でも、人材育成訓練(OFF-JT部分のみ)の要件を満たす場合には、人材育成訓練として助成を受けられる場合があります。ただし、人材育成訓練にはOJT実施助成はありませんので、受給額は変わります。事前に管轄の労働局または社会保険労務士にご相談ください。
7. まとめ
中高年齢者実習型訓練は、令和8年4月に新設された、45歳以上のベテラン層を対象としたOJT+OFF-JT型の育成助成金です。
大臣認定が不要でシンプルな手続きで申請でき、正社員転換の義務もないため、在職中の職務転換やデジタルスキルの習得など幅広い場面で活用できます。
50代の事務スタッフに新システムを習得してもらいたい場合や、現場のベテランを管理部門へ転換させる際の育成費用に活用することで、経費助成60%(賃上げ等加算時75%)とOJT実施助成10万円が受けられます。
まず対象となる45歳以上の従業員を確認し、キャリアコンサルティングの実施と計画届の提出期限を確認するところから始めましょう。
要件の確認や計画届の作成でお困りの場合は、都道府県労働局・ハローワーク、または社会保険労務士にご相談ください。

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※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。助成金の支給要件は変更されることがあるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(令和8年度版)パンフレット(PL080408開企01)」
厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)支給要領(令和8年4月8日版)」
厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)改正のご案内(中高年齢者実習型訓練の新設)」