「社員に専門的な技術を身につけさせたいが、外部研修の費用が高額で二の足を踏んでいる」
「研修に参加させている間も給与が発生するため、会社としてのコスト負担が重い」
そんなときに活用したいのが「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の人材育成訓練」です。
受講料などの経費だけでなく、研修中に支払った賃金の一部まで助成を受けられる制度で、正社員はもちろんパートや契約社員にも使えます。
人材育成支援コースの4つのメニューの中で最もシンプルで使いやすく、多くの企業が最初に手がける定番の助成金です。
本記事では、専門的な法律用語はできるだけ使わず、この「人材育成訓練」を活用して、コストを抑えながら社員のスキルアップを実現する方法を、実務のポイントに絞ってわかりやすく解説します。
こんな企業におすすめ!
・パートや契約社員にも積極的にスキルアップの機会を提供したい
・資格取得の費用を会社が負担して従業員の定着につなげたい
・外部講師を招いて社内で専門スキルの勉強会を開きたい
👉人材開発支援助成金(人材育成支援コース)全体の解説についてはこちら
1. 人材育成訓練とは?
人材育成訓練とは、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるためのOFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)に対して助成するメニューです。
OFF-JTとは、通常の業務から切り離して行う座学や実技演習のことです。
他のコース(有期実習型訓練など)と異なり、”OJT(働きながらの現場実習)”はセットになっていません。純粋に「業務を離れて学ぶ時間」を支援する制度です。
このコースの特徴としては、”シンプルさ” と”対象者の広さ”が挙げられます。
外部研修に行くあるいは講師を呼んで社内研修をするだけで要件を満たせ、面倒な「OJT訓練日誌」の毎日作成や指導担当者の配置が不要です。
そして雇用保険に入っている従業員であれば、正社員、契約社員、パートタイマーを問わず対象になるという対象者の広さもメリットの1つです。
2. いくらもらえる? 助成率・助成額(中小企業)
助成金には「経費助成」と「賃金助成」の2種類があります。訓練後に賃金要件または資格等手当要件(一定以上の賃上げ等)を満たした場合は、助成率・助成額がさらに加算されます。
経費助成(受講料などの補助)
| 対象者 | 通常 | 賃上げ等加算時 |
|---|---|---|
| 正規雇用労働者等 | 45% | 60%(+15%) |
| 有期契約労働者等 | 70% | 85%(+15%) |
「有期契約労働者等」とは、契約社員・パートタイマー・アルバイトなど、正規雇用労働者以外の従業員のことです。正規雇用労働者等への訓練より助成率が高く設定されています。
経費助成には、訓練時間数に応じた上限額があります(1人1訓練あたり)。
| 訓練時間数 | 上限額(中小企業) |
|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 15万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 30万円 |
| 200時間以上 | 50万円 |
1事業所・1年度あたりの助成限度額は1,000万円です。なお、従業員1人が1年度に受けた訓練について申請できる回数は3回までです。
賃金助成(研修中の賃金補助)
従業員が訓練を受けている時間中も賃金を通常どおり支払う必要がありますが、その負担を軽減するための助成です。
| 区分 | 通常 | 賃上げ等加算時 |
|---|---|---|
| 1人1時間あたり | 800円 | 1,000円(+200円) |
賃金助成は所定労働時間内に受講した時間のみが対象です。所定労働時間外(残業時間中)に受講した時間は対象外となります。また、賃金助成の上限は1人1訓練あたり1,200時間分(専門実践教育訓練は1,600時間分)です。
eラーニング・通信制の注意点
eラーニングや通信制による訓練は、経費助成の対象にはなりますが、賃金助成の対象外です。
| 経費助成: | ○ |
| 賃金助成 | ×(0円) |
また、令和8年4月以降は経費助成の上限額が一律15万円(中小企業)となっています。
訓練時間数がいくら長くても、eラーニング・通信制の場合は上限が15万円に固定されます。
3. 活用事例
事例1:建設業(正社員が施工管理の資格取得研修を受ける)
現場スタッフ(正規雇用)に、外部スクールで土木施工管理技士の受験対策講座(計30時間、受講料20万円)を受けさせた。
受給額の試算(通常分)
- 経費助成:9万円(20万円×45%)
- 賃金助成:2万4千円(30時間×800円)
- 合計:11万4千円
事例2:介護業(パート従業員が実務者研修を受ける・賃上げあり)
パート従業員に、外部スクールで介護福祉士実務者研修(計50時間、受講料10万円)を受けさせ、訓練後に時給を5%以上引き上げた。
受給額の試算(賃上げ等加算あり)
- 経費助成:8万5千円(10万円×85%)
- 賃金助成:5万円(50時間×1,000円)
- 合計:13万5千円
事例3:飲食業(接遇マナー研修)→ 不支給のケース
全従業員に外部講師による「ビジネスマナー・接遇研修」を実施した。
結果:不支給(0円)
「接遇・マナー講習等、職業人として共通して必要となるもの(基礎的なスキル)」は助成対象外とされています。同じ飲食業でも、「ソムリエ資格取得講座」や「食品衛生責任者養成講習」のように職務に直結する専門的な内容であれば対象になります。
4. 支給要件
支給要件は「訓練の要件」と「労働者の要件」の2つで構成されています。いずれも満たす必要があります。
訓練の要件
- 職務に関連した専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練「職務関連訓練」であること
従業員の現在の職務、または将来就く予定の職務に直結する内容であることが必要です。趣味・教養的なものや、接遇マナーなど職業人として共通して必要な基礎的スキルのみの研修は対象外です。
職務関連訓練と判断される例として、建設業の現場スタッフへの施工管理技士資格取得研修、介護施設スタッフへの介護福祉士実務者研修、情報通信業のシステム担当者へのプログラミング研修、人事・労務担当者への労働関係法改正対応研修などがあります。 - OFF-JTであること
通常の業務から切り離して行う座学や実技演習である必要があります。生産ラインや就労の場で行われるものは対象外です。 - 訓練の実施方法が次のいずれかであり、時間数の要件を満たすこと
【通学制または同時双方向型の通信訓練の場合】:1コースあたりの実訓練時間数が、計画届の提出時および支給申請時において10時間以上であること。
なお「同時双方向型の通信訓練」とは、ZoomやTeamsなどのオンラインライブ研修で、リアルタイムに質疑応答ができるものを指します。録画視聴のみのものは該当しません。
【eラーニングまたは通信制の場合】:1コースあたりの標準学習時間が10時間以上であること、または1コースあたりの標準学習期間が1か月以上であること。 - 事業内訓練または事業外訓練であること
外部の研修機関に通わせる「事業外訓練」でも、外部講師を招いた社内研修など会社が主催する「事業内訓練」でも対象になります。ただし、eラーニングや通信制は事業内訓練としては認められません。
労働者の要件
- 訓練実施期間中に雇用保険の被保険者であること
有期契約労働者等の場合は、訓練終了日または支給申請日に被保険者であれば対象になります。 - 計画届提出時に提出した「対象労働者一覧(様式第3-1号)」に記載のある労働者であること
計画届に名前のない従業員に訓練を受けさせても、助成金の対象にはなりません。 - 受講時間数が実訓練時間数の8割以上であること(通学制・同時双方向型の通信訓練の場合)
病欠や早退で受講率が8割を下回った場合、その従業員分の助成金は全額不支給となります。遅刻・早退も時間数から差し引かれます。 - <育児休業中訓練の場合>
育児休業期間中に訓練の受講を開始すること、かつ従業員が自発的に申し出て受講する訓練であること。
通常、業務上の義務として実施されない自発的な訓練はOFF-JTの対象外ですが、育児休業中訓練に限り例外的に認められています。
申請時には「自発的職業能力開発に関する申立書」(様式第7号)の提出が必要です。
なお、育児休業中訓練は業務中ではないため賃金助成の対象外(経費助成のみ)となります。その他の特徴として、経費助成の上限は一律30万円(中小企業)、実訓練時間数10時間未満でも助成対象となります。
eラーニング・通信制の場合は、訓練実施期間中に訓練を修了していることが必要です。
5. 申請の流れ
訓練を始める前に必ず計画届を提出しておく必要があります。計画届の提出前に訓練を開始した場合は、助成金を受けることができません。
STEP1:計画届の提出
訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に「職業訓練実施計画届(様式第1-1号)」と必要書類を管轄の都道府県労働局へ提出します。1か月前を1日でも過ぎると受け付けられませんので、日程には余裕を持って動きましょう。
主な提出書類
- 職業訓練実施計画届(様式第1-1号)
- 対象労働者一覧(様式第3-1号)
- 事前確認書(様式第11号)
- 訓練カリキュラム・受講案内等
- 事業外訓練の場合:教育訓練機関との契約書または受講案内・申込書の写し
STEP2:訓練の実施
計画届の内容に沿って訓練を実施します。支給申請日までに訓練にかかった経費を全額支払っておく必要があります。受講率の管理(8割以上)を意識しながら進めましょう。
STEP3:支給申請
訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に「支給申請書(様式第4-1号)」と必要書類を労働局へ提出します。この期限も厳守です。
6. Q&A
Q1. eラーニングでも申請できますか?
はい、可能です。
ただし、eラーニング・通信制の場合は経費助成のみで、賃金助成は受けられません。
また、LMS(ラーニング・マネジメント・システム)という受講管理システムで進捗管理ができる訓練であることが必要です。受講状況を記録・証明できない訓練は対象外となります。
さらに、令和8年4月以降は経費助成の上限額が一律15万円(中小企業)となっています。
Q2. 新入社員研修にも使えますか?
使えます。
新入社員研修でも、職務に関連した専門知識(プログラミング、財務会計、施工管理など)を10時間以上学ぶ内容であれば対象になります。
ただし、名刺交換や挨拶の仕方など、職業人として共通して必要な基礎的スキルのみの研修は対象外です。
専門的な内容と組み合わせている場合は、専門スキル部分の時間のみが助成対象時間として計上されます。
Q3. 社内で講師を立てて勉強会を開く場合も対象になりますか?
はい、対象になります。社内の社員が講師を務める「事業内訓練」も対象です。
ただし、部内講師(社内スタッフ)が指導する場合は講師要件があり、担当する訓練内容に関して実務経験が10年以上あることなどが必要です。また、eラーニングや通信制による事業内訓練は認められないという制約もあります。
Q4. 計画届を出し忘れた場合はどうなりますか?
残念ながら、訓練開始1か月前を過ぎて計画届を提出した場合は申請できません。
この期限は例外なく厳守です。「訓練が決まったらまず計画届の提出期限を確認する」という手順を社内で徹底することをお勧めします。
Q5. 同じ研修を年度内に複数回受けさせた場合も申請できますか?
公式資料上、人材育成訓練について「同一内容の訓練を同一労働者が受講する回数」を明示的に制限する規定は確認できません。ただし、1年度あたりの申請回数の上限は1人につき3回です。
また「職務に関連した専門的な知識・技能の習得」という制度趣旨に照らして、同一内容の訓練の繰り返し受講が助成対象として認められるかどうかは、個別の審査によって判断される場合があります。
7. まとめ
人材育成訓練は、人材育成支援コースの中で最もシンプルに使えるメニューです。
外部研修への参加や社内研修の実施だけで申請でき、正社員からパートまで幅広く対象にできます。
受講料の45〜85%(中小企業の場合)が返ってくるうえ、研修中の賃金補助として1人1時間あたり800円が加算されます。
訓練後に一定以上の賃上げを行えば助成率・助成額がさらに上がるため、賃上げと人材育成をセットで計画するとより効果的に活用できます。
まず訓練の日程を決め、開始1か月前までに計画届を提出することが最初の一歩です。
要件の確認や書類の準備でわからないことがあれば、都道府県労働局・ハローワーク、または社会保険労務士にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください
※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。助成金の支給要件は変更されることがあるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(令和8年度版)」
厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)支給要領(令和8年4月8日版)」
👉 厚生労働省:人材開発支援助成金 公式ページ(申請書・要領のダウンロードはこちら)
