「キャリアアップ助成金」という名前は、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
雇用関係の助成金の中でも歴史が長く、経営者や人事担当の方の間では広く知られた制度です。ただ、「聞いたことはあるけれど、結局よくわからないまま申請したことはない」という会社が多いのも実情です。
パートやアルバイト、派遣スタッフといった非正規雇用の従業員の待遇改善や正社員への転換を実施した事業主に対して、国がお金を助成してくれます。この記事では、制度の全体像と申請の流れを具体的に解説します。
こんな企業におすすめ!
・長年働いているパートやアルバイト、契約社員を正社員にしたいが、何から手をつければいいかわからない
・パートやアルバイトの時給を上げたいが、原資の確保が難しく踏み切れずにいる
・パートやアルバイトの賞与や退職金の導入を検討している
1. キャリアアップ助成金とは?
(以下、キャリアアップ助成金のご案内(令和8年年度版)P.1、P.6より引用)
「キャリアアップ助成金」とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。
パートや契約社員を正社員にする取組はもちろん、正社員にしなくても給与を上げたり、賞与・退職金の制度を新しく設けたりといった待遇改善を実施した場合にも、その費用の一部を国が補助してくれる制度です。
正社員転換や賃金の引き上げといった取組を「やってから申請する」後払い方式のため、まず会社側が費用を負担して取組を実施し、一定期間後に申請する流れになります。
コースの全体像
キャリアアップ助成金には、目的に応じて選べる5つのコースがあります。大きく「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つに分かれます。
【正社員化支援】
| コース名 | 概要 |
|---|---|
| 正社員化コース | 有期雇用労働者等を正社員に転換した場合に助成 |
【処遇改善支援】
| コース名 | 概要 |
|---|---|
| 賃金規定等改定コース | 基本給の賃金規定を3%以上引き上げた場合に助成 |
| 賃金規定等共通化コース | 正社員と共通の賃金規定を新たに作成・適用した場合に助成 |
| 賞与・退職金制度導入コース | 賞与または退職金制度を新たに設けた場合に助成 |
| 短時間労働者労働時間延長支援コース | 短時間労働者の労働時間を延長し社会保険に加入させた場合に助成 |
各コースの詳しい要件や助成額は、それぞれの個別記事で解説しています。
2. 受け取れる金額の目安
(以下、キャリアアップ助成金のご案内(令和8年年度版)P.6〜8より引用)
助成額はコースによって異なります。以下は中小企業が受け取れる金額の一覧です。
正社員化コース(1人当たり)
パートや契約社員として働いている従業員を正社員に転換した場合に受け取れるコースです。転換する前の雇用形態や、対象となる従業員の状況によって助成額が変わります。
| 転換前の雇用形態 | 重点支援対象者 | 左記以外 |
|---|---|---|
| 有期雇用労働者→正規雇用労働者 | 80万円 | 40万円 |
| 無期雇用労働者→正規雇用労働者 | 40万円 | 20万円 |
“重点支援対象者”とは、雇入れから3年以上経過した有期雇用労働者や、派遣労働者、母子家庭の母等が該当します。
詳しくは正社員化コースの記事をご確認ください。
加算として、正社員転換制度を新たに就業規則に規定した場合は1事業所当たり20万円、勤務地限定・職務限定・短時間正社員といった多様な正社員制度を新たに規定した場合は1事業所当たり40万円が上乗せされます(各1回のみ)。
賃金規定等改定コース(1人当たり)
パートや契約社員の基本給を定めた賃金規定を3%以上引き上げ、実際に適用した場合に受け取れるコースです。引き上げ率が高いほど助成額も大きくなります。
| 賃金引き上げ率 | 助成額 |
|---|---|
| 3%以上4%未満 | 4万円 |
| 4%以上5%未満 | 5万円 |
| 5%以上6%未満 | 6.5万円 |
| 6%以上 | 7万円 |
賃金規定等共通化コース
正社員とパート・契約社員で別々になっている給与体系を、職務内容に応じた共通の賃金規定に統一した場合に受け取れるコースです。
1事業所当たり60万円(1回のみ)
賞与・退職金制度導入コース
パートや契約社員を対象とした賞与や退職金の制度がない会社が、新たに制度を設けて実際に支給または積立を行った場合に受け取れるコースです。
| 導入内容 | 助成額 |
|---|---|
| 賞与または退職金制度のいずれかを導入 | 40万円 |
| 賞与と退職金制度を同時に導入 | 56万8,000円 |
いずれも1事業所当たり1回のみの支給です。
短時間労働者労働時間延長支援コース
週の労働時間が短いパート従業員の労働時間を延ばして社会保険に加入させた場合に受け取れるコースです。
1年目の取組と2年目の取組に分かれており、継続して取り組むことで合計最大60万円を受け取れます。
| 取組 | 助成額 |
|---|---|
| 1年目:労働時間の延長+社会保険加入 | 最大40万円 |
| 2年目:さらに労働時間の延長等 | 最大20万円 |
延長する時間数や賃金の増加率によって助成額が変わります。
詳しくは短時間労働者労働時間延長支援コースの記事をご確認ください。
3. 活用事例
事例1:長く働いてくれたパート社員を正社員にしたい(正社員化コース)
居酒屋を2店舗経営。5年前から働くホールスタッフのパート社員が新人教育も任せられる存在になっていたため、本人に正社員を打診し、正社員として切り替えた。
雇入れから5年が経過しているため”重点支援対象者”に該当し、中小企業では1人あたり80万円の助成対象に。転換前日までにキャリアアップ計画書を提出し、就業規則に正社員転換の規定を追加。転換後の賃金が転換前6か月平均と比べて3%以上増額されていることを確認したうえで転換し、6か月分の賃金支払い後に申請した。
事例2:正社員にはしないが、パート社員の給与を一斉に見直したい(賃金規定等改定コース)
パート社員30名を雇用するスーパーマーケット。物価上昇を受けて時給を上げたいが、原資の確保が課題だった。
賃金規定等改定コースでは、賃金規定を整備して3%以上引き上げた従業員1人につき最大7万円の助成が受けられる。30名全員に適用した場合、最大210万円の助成となる。
事例3:計画提出前に転換してしまい、申請できなかったケース
キャリアアップ助成金の存在を知り、すぐにパート社員を正社員に転換した事業主のケース。
申請時に「転換の前日までにキャリアアップ計画を提出する必要があった」ことが判明し、今回の転換分は申請不可となった。
4. 申請までの流れ
キャリアアップ助成金は、取組を始める前に必ず「キャリアアップ計画」を提出しておく必要があります。
計画の提出なしに取組を先に実施してしまうと、要件を満たさず申請できなくなるため、順番を間違えないことが重要です。
- キャリアアップ計画の作成・提出
各コースの取組を始める日の前日までに、「キャリアアップ計画書」を作成し、管轄の都道府県労働局またはハローワークに提出します。計画書には、どの従業員を対象に、どのコースの取組をいつ実施するかを記載します。
提出方法は、窓口への持参・郵送・電子申請のいずれかで行えます。 - 取組の実施
計画書の提出後、コースに応じた取組を実施します。
正社員化コースの場合:就業規則に正社員転換の規定がない場合は、まず就業規則を改定します。その後、就業規則に基づいて正社員への転換を実施します。なお、正社員転換後の賃金は、転換前の6か月間と比較して3%以上増額されている必要があります。
処遇改善支援コースの場合:就業規則の改定や賃金規定の整備など、各コースで定められた取組を実施します。 - 取組後6か月分の賃金を支払う
取組を実施した後、対象となる従業員に6か月分の賃金を支払います。この期間は、取組が実態を伴って継続されているかを確認するために設けられています。 - 支給申請
6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書と必要書類を提出します。申請が遅れると受け付けてもらえなくなるため、支払い完了後はすみやかに準備を進めましょう。
5. よくある質問
Q. 試用期間中の従業員を正社員に転換した場合も対象になりますか?
A. 試用期間は雇用契約上の有期雇用期間とみなされます。そのため、試用期間が終了して本採用(正社員)となった時点が「転換」として扱われ、要件を満たせば助成の対象になります。ただし、転換前に一定の雇用期間が必要なコースもあるため、事前に確認が必要です。
Q. 複数のコースを同時に使うことはできますか?
A. 可能です。例えば、正社員化コースでパートを正社員に転換しながら、賃金規定等改定コースで残りのパート従業員の賃金を引き上げるといった組み合わせができます。ただし、同一の取組について複数のコースから重複して助成を受けることはできません。
Q. 1人の従業員に対して、同じコースを複数回申請できますか?
A. 原則として、同一の従業員について同じコースを再度申請することはできません。例えば、正社員化コースは1人につき1回の助成が上限です。
Q. パートが1人しかいない会社でも申請できますか?
A. 対象となる取組の要件を満たしていれば、従業員の人数に下限はありません。パートが1人だけの小規模な事業所でも申請できます。
Q. 申請は自分でできますか?社会保険労務士に頼まないといけませんか?
A. 事業主が自身で申請することは可能です。ただし、書類の種類が多く、提出期限の管理や要件の確認に手間がかかります。はじめて申請する場合や、複数のコースをまとめて活用したい場合は、社会保険労務士に相談すると書類の準備から申請まで一括してサポートを受けられます。
6. まとめ
キャリアアップ助成金は、パートや契約社員として働く従業員の待遇を改善した事業主を幅広く支援する制度です。
正社員への転換だけでなく、給与の引き上げや賞与・退職金制度の新設、労働時間の延長といった取組も対象になります。
どのコースを選ぶかは、自社の状況によって異なります。長く働いているパート社員の正社員化を検討しているなら正社員化コースが、給与体系の見直しを進めたいなら賃金規定等改定コースや賃金規定等共通化コースが候補になります。
申請にあたって最も注意が必要なのは、”取組を始める前日までにキャリアアップ計画を提出する”という順番です。取組を先に実施してしまうと、どれだけ要件を満たしていても申請できなくなります。まずは自社で検討しているコースを絞り込み、計画書の提出を最初の一歩として動き出しましょう。
要件の詳細や自社の状況への当てはめ方については、管轄の都道府県労働局またはハローワーク、もしくは社会保険労務士にご相談ください。

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※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。
助成金の支給要件は頻繁に変更されるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年年度版)」
「キャリアアップ助成金支給要領(令和8年年度版)」
「キャリアアップ助成金Q&A(令和8年年度版)」
👉 厚生労働省:キャリアアップ助成金 公式ページ(申請書・要領のダウンロードはこちら)