いわゆる「年収の壁」を気にして短時間勤務に抑えているパートタイマーに、もっと働いてもらいたい。人手不足が続く中で、そう考えている事業主は少なくありません。
キャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、短時間労働者の週の所定労働時間を延長し、新たに社会保険(健康保険・厚生年金)に加入させた場合に、1人あたり最大40万円(中小企業)の助成が受けられる制度です。
なお、本コースは当分の間の暫定措置として設けられています。
こんな企業におすすめ!
・社会保険の適用拡大への対応として、パートタイマーの勤務時間を増やす方針がある
・短時間労働者を社会保険に加入させる際に、賃金引き上げも合わせて行う予定がある
・人手不足対策として、既存のパートタイマーの勤務時間を拡大したい
1. 短時間労働者労働時間延長支援コースとは?
このコースは、短時間労働者(社会保険未加入のパートタイマー等)の週の所定労働時間を延長するとともに、新たに社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者とした場合に助成する制度です。
具体的には次の2段階の取組があります。
1年目の取組:週の所定労働時間を延長し、新たに社会保険に加入させること
2年目の取組(1年目の取組後に追加で実施):さらに労働時間を延長するか、基本給を増額するか、昇給・賞与・退職金制度を新たに適用すること
1年目・2年目それぞれの取組について助成が受けられます。
「延長」の考え方
延長前6か月の週当たりの平均実労働時間と、延長後6か月の週の所定労働時間を比較して、所定の延長時間数を満たしているかどうかを判定します。
また、複数年かけて段階的に労働時間を延長し、社会保険加入要件を満たすケースも対象となります。たとえば、2時間 → さらに2時間 → さらに1時間と3回に分けて計5時間延長し、社会保険加入要件を満たした場合なども申請できます。
2. いくらもらえる?
1年目の取組(1人あたり)
| 延長時間 | 賃金引き上げ要件 | 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|---|
| 5時間以上 | なし | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| 4時間以上5時間未満 | 基本給5%以上引き上げ | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| 3時間以上4時間未満 | 基本給10%以上引き上げ | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| 2時間以上3時間未満 | 基本給15%以上引き上げ | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
5時間以上延長する場合は賃金引き上げ要件はありませんが、5時間未満の延長の場合は、延長時間数に応じた基本給の引き上げが必要です。
2年目の取組(1人あたり・1年目の取組後に実施した場合)
| 企業規模 | 取組内容 | 助成額 |
|---|---|---|
| 中小企業 | a. さらに2時間以上延長 または b. 基本給をさらに5%以上増額 または c. 昇給・賞与・退職金制度のいずれかを新たに適用 | 20万円 |
| 小規模企業 | 同上 | 25万円 |
| 大企業 | 同上 | 15万円 |
3. 活用事例
事例1:週16時間のパートタイマーを週22時間に延長して社会保険加入
週16時間勤務(時給1,300円)だったパートタイマーを、週22時間勤務に変更、健康保険・厚生年金に新たに加入。
延長時間は6時間(5時間以上)のため、賃金引き上げ要件なし。
1年目の取組で1人あたり40万円を受給した。
翌年、さらに週の所定労働時間を2時間延長(週24時間に変更)し、2年目の取組で1人あたり20万円を追加受給した。
事例2:週17時間から週20時間に延長し、基本給を10%引き上げ
週17時間勤務(時給1,200円)だったパートタイマーを週20時間に変更、健康保険・厚生年金に新たに加入。
延長時間は3時間(3時間以上4時間未満)のため、基本給を10%以上引き上げる必要があるため、時給1,200円から1,320円(10%増)に引き上げた。
1年目の取組で1人あたり40万円を受給した。
事例3:週15時間から週20時間に段階的に延長して社会保険加入
週15時間勤務のパートタイマーの勤務時間を、まず週18時間(+3時間)に変更し、翌年度に週20時間(さらに+2時間)に延長して健康保険・厚生年金に新たに加入。計5時間の延長をキャリアアップ計画期間内に段階的に実施。
複数年かけての延長も対象となるため、1年目の取組として申請し、40万円を受給した。
4. 支給要件
対象となる労働者の要件
次の要件をすべて満たす労働者が対象です。
- 週所定労働時間を延長した日(または新たに社会保険の被保険者とした日のいずれか早い日)の前日から起算して6か月前の日から継続して雇用されている有期雇用労働者等であること
延長等の実施前から6か月以上在籍していることが必要です。 - 新たに社会保険の被保険者要件を満たし、社会保険の被保険者となったこと
社会保険の適用日の1か月前から3か月が経過するまでの間に、週の所定労働時間の延長が行われ、新たに社会保険の被保険者要件を満たしたことが必要です。 - 社会保険の適用日の前日から過去6か月間、社会保険の適用要件を満たしていなかった者であること。かつ過去2年以内に同じ事業所で社会保険に加入していなかった者であること
以前に同じ事業所で社会保険に加入していた場合は対象になりません。 - 週所定労働時間の延長等を行った事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族でないこと
- 支給申請日において離職していないこと
対象となる事業主の要件
次の要件をすべて満たす事業主が助成の対象となります。
- 対象労働者を各支給対象期の期間以上継続して雇用し、賃金を支給したこと
- 基本給および定額で支給されている諸手当を、社会保険適用前と比べて合理的な理由なく減額していないこと
- 対象労働者について、社会保険の被保険者要件を満たした日以降、雇用保険および社会保険の被保険者として適用させていること
- 対象労働者について、週の所定労働時間および社会保険加入状況を明確にした雇用契約書等を作成・交付していること
- 週の所定労働時間を5時間以上延長(または2時間以上5時間未満の延長かつ基本給の増額)し、社会保険の被保険者要件を満たすよう取り組んだこと
- 社会保険の適用日の1か月前から3か月が経過するまでの間に、上記⑤の措置を講じたこと
5. 申請の流れ
STEP1. キャリアアップ計画の作成・提出
週の所定労働時間の延長等を実施する前日までに、「キャリアアップ計画書」を作成し、管轄の都道府県労働局またはハローワークに提出します。
なお、旧「社会保険適用時処遇改善コース」の計画届を提出している場合は、本コースのための新たな計画届の提出は不要です。
STEP2. 労働時間の延長・雇用契約書の交付・社会保険の手続き
週の所定労働時間を延長し、変更後の週所定労働時間と社会保険加入状況を明記した雇用契約書または労働条件通知書を交付します。その後、健康保険・厚生年金の資格取得手続きを行います。
5時間未満の延長の場合は、この段階で基本給の引き上げも実施します。
STEP3. 延長後6か月分の賃金を支払う
社会保険に加入させた後、6か月分の賃金を支払います。この間、基本給および定額で支給している諸手当を合理的な理由なく下げないよう注意が必要です。
申請期限の例(賃金締切日が月末・翌月15日払いの場合)
4月1日に労働時間を延長・社会保険加入させた場合、6か月分の賃金算定期間は4月〜9月分。9月分の賃金は10月15日に支払われるため、10月16日から2か月以内(12月15日まで)が申請期限です。
STEP4. 支給申請(1年目)
6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に申請します。
STEP5. 2年目の取組(任意)
1年目の取組後に、さらに2時間以上の延長・基本給5%以上増額・昇給等制度の新たな適用のいずれかを行った場合、2年目の取組として追加で申請できます。2年目の支給対象期は、第1期支給対象期間の末日の翌日から7か月目以降の6か月間です。
6. 申請書類
1年目の申請に必要な主な書類
- キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
- 短時間労働者労働時間延長支援コース内訳(様式第3号・別添様式6)
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 管轄労働局長に受理されたキャリアアップ計画書(写)
- 対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書等(社会保険の適用前後のもの)(写)
労働時間の延長内容と社会保険加入状況が確認できるものが必要です。 - 対象労働者の賃金台帳等(社会保険適用または週所定労働時間延長の前後6か月分)(写)
2年目(昇給・賞与・退職金制度を新たに適用した場合の追加書類)
- 当該制度適用前後の就業規則または賃金規定等(写)
- 制度が適用されたことが確認できる賃金台帳等
7. Q&A
Q1. 年収の壁を気にして短時間に抑えているパートタイマーに、どう説明すれば協力を得やすいですか?
社会保険に加入すると給与の手取りが減るという不安を持つ方が多いです。
実際には、健康保険・厚生年金の加入によって将来の年金受給額が増えること、傷病手当金・出産手当金などの保障が充実することを説明することが大切です。
また、本コースで助成を受けながら賃金引き上げも行うことで、社会保険料負担分を補える水準に賃金を設定できる場合があります。制度の趣旨を丁寧に説明し、労働者の同意を得たうえで進めることが重要です。
Q2. 延長時間が5時間未満のケースで、基本給の引き上げ率が10%に満たない場合はどうなりますか?
残念ながら、延長時間が5時間未満の場合は、定められた基本給の引き上げ率を満たすことが必要です。
たとえば3時間以上4時間未満の延長では10%以上の基本給引き上げが要件となっており、引き上げ率が10%未満では要件を満たせず、助成の対象になりません。延長時間をあと少し増やして5時間以上にすることで賃金引き上げ要件がなくなるため、労働時間設計の段階で要件確認をしながら進めることをおすすめします。
Q3. 2年目の取組で「昇給制度の新たな適用」を選択する場合、どのような要件がありますか?
同一の事業主に雇用される有期雇用労働者等に適用される就業規則等に、昇給制度の実施が規定されており、有期雇用労働者等に当該就業規則等が適用されていることが必要です。また、昇給制度は有期雇用労働者等に適用する制度として社会通念上相当な水準のものでなければなりません。
単に「昇給あり」と記載するだけでなく、昇給の条件・時期・幅などが就業規則等に規定されていることが必要です。
Q4. 複数のパートタイマーの労働時間を延長する場合、全員まとめて1回で申請できますか?
できます。
複数の対象労働者を同時に申請することが可能ですが、それぞれの対象期間(6か月分の賃金支払い完了日)が異なる場合は、対象期間ごとに申請が必要です。
Q5. 現在、週19時間勤務のパートタイマーを週20時間に増やすだけでは対象になりますか?
延長時間が1時間のみでは、このコースで定める2時間以上3時間未満の最低延長時間要件を満たさないため、残念ながら対象になりません。最低でも2時間以上の延長が必要です。
また、2時間以上3時間未満の延長の場合は、基本給の15%以上引き上げも必要です。要件を満たすよう、労働時間と賃金の両面から設計を検討してください。
8. まとめ
短時間労働者労働時間延長支援コースは、社会保険の適用拡大への対応や人手不足解消策として、短時間労働者の週の所定労働時間を延長し、新たに社会保険に加入させた場合に1人あたり最大40万円(中小企業)の助成が受けられる制度です。
このコースで特に重要なのは、延長時間と賃金引き上げ要件の組み合わせです。5時間以上延長できれば賃金引き上げは不要ですが、延長幅が小さい場合は基本給を相応に引き上げることが条件となります。労働時間の設計段階から要件を確認しながら進めることが重要です。
また、延長を複数年に分けて段階的に行うことも可能なため、業務量や本人の希望に合わせて柔軟に対応できます。
社会保険への加入は労働者にとっても手取り減少への不安がある事柄です。助成金を活用した賃金引き上げとセットで進め、労働者が安心して働き続けられる環境づくりにつなげましょう。
要件の詳細や自社への当てはめについては、管轄の都道府県労働局またはハローワーク、もしくは社会保険労務士にご相談ください。

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※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。
助成金の支給要件は頻繁に変更されるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年年度版)」
「キャリアアップ助成金支給要領(令和8年年度版)」
「キャリアアップ助成金Q&A(令和8年年度版)」