パートやアルバイト、契約社員の賃金を上げたい。でも、人件費の増加がそのまま会社の負担になる。そう考えると、なかなか踏み出せない——。
最低賃金の引き上げへの対応、優秀なパートタイマーの定着のためのベースアップ、長年据え置いてきた時給の見直しなど、賃上げの動機はさまざまですが、コスト面でためらいが生じる点は共通しています。
キャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」は、有期雇用労働者等の基本給を3%以上引き上げた場合に、1人あたり最大7万円の助成が受けられる制度です。最低賃金の引き上げに対応した賃上げも助成の対象となります。
こんな企業におすすめ!
・毎年10月の最低賃金改定に合わせてパートや契約社員の時給を引き上げている
・パートタイマーの時給をベースアップしたいが、どう賃金規定等を整備すればよいかわからない
・就業規則はあるが、有期雇用労働者等に適用される賃金規定等を別に作成していない
・昇給制度をパートにも適用したいと考えているが、就業規則への規定の仕方がわからない
1. 賃金規定等改定コースとは?
「賃金規定等改定コース」とは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた場合に助成する制度です。
ここでいう「賃金規定等」とは、就業規則や労働協約において賃金額の定めがあるものを指します。具体的には、次の2つのパターンがあります。
就業規則内の賃金条文
就業規則の中に「契約社員およびパートタイマーの賃金を○○のとおり定める」と直接記載しているもの、または「賃金は賃金規定(規程)・賃金一覧表等のとおり定める」と別規程を参照する形で定めているものです。
賃金規定(規程)
就業規則とは別に独立して作成された規程で、賃金の種類・基本給の決め方・等級ごとの金額などを定めたものです。
第○条(基本給)として「基本給は時給によって定める。なお、その金額は本人の能力および経験等に応じ、○級:○○円、○級:○○円とする」といった形で定めます。
なお、等級ごとの金額を一覧にした賃金一覧表(賃金テーブル)は、上記いずれかの書類に別表として紐づくものです(例:1級:○○○円、2級:○○○円)。
2. いくらもらえる?
基本の助成額(中小企業・1人当たり)
| 賃金引き上げ率 | 3%以上4%未満 | 4%以上5%未満 | 5%以上6%未満 | 6%以上 |
|---|---|---|---|---|
| 中小企業 | 4万円 | 5万円 | 6.5万円 | 7万円 |
引き上げ率が高いほど助成額も上がる仕組みです。
最低賃金の引き上げに対応して賃金を改定した場合も、このコースの助成対象となります。ただし、新しい最低賃金が適用される前に賃金規定等を改定しておくことが重要です。
最低賃金は毎年10月頃に引き上げられますが、たとえば9月中に賃金規定等を改定した場合、引き上げた賃金の全額が3%計算の対象となります。
一方、10月以降に改定した場合は、新しい最低賃金額に達するまでの増額分が計算から除かれるため、同じ金額を引き上げても助成額の区分が下がったり、要件を満たせなくなったりする可能性があります。
1年度1事業所当たりの支給申請上限は100人です。
加算額(中小企業・1事業所当たり1回のみ)
| 措置内容 | 加算額 |
|---|---|
| 職務評価の手法を活用して賃金規定等を増額改定した場合 | 20万円 |
| 昇給制度を新たに規定した場合 | 20万円 |
「職務評価」とは、各職務に求められるスキル・責任の重さ・労働負荷などの要素を点数化し、職務の大きさを客観的に比較する手法のことです。
なんとなく経験年数で決めてきた賃金を、仕事の内容・難易度に基づいて根拠のある水準に設定し直すことが目的です。
昇給制度の加算については、有期雇用労働者等全員に適用される昇給制度を就業規則等に新たに規定したことが条件です。
既存の正社員向け制度を拡充するのではなく、有期雇用労働者等を対象とした昇給制度を新設する必要があります。
規定の内容としては、「毎年○月に昇給を行う」という実施時期のほか、昇給の判断基準(勤務成績・人事評価結果など)を就業規則上に客観的に定めることが求められます。
「会社が必要と認めた場合に行う」のように裁量のみで決まる書き方は認められません。
3. 活用事例
事例1:パートタイマー全員の時給を4%引き上げ
有期雇用のパートタイマー全員の時給を一律4%引き上げたケースです。
賃金一覧表を改定し、改定後の時給で6か月分の賃金を支払ったうえで申請しました。引き上げ率が4%以上5%未満の区分に該当し、1人あたり5万円の助成を受給しました。対象従業員が10人いたため、合計50万円の受給となりました。
事例2:10月の最低賃金改定前に賃金規定等を改定して申請
毎年10月の最低賃金改定を機に、9月中に有期雇用労働者等の賃金規定等を改定したケースです。
改定前に手続きを完了させたことで、引き上げ額の全額が引き上げ率の計算対象となりました。
事例3:賃金規定等の改定と同時に昇給制度を新設して加算も取得 ✅
賃金規定等の増額改定に合わせて、有期雇用労働者等に適用される昇給制度を就業規則に新たに規定したケースです。
基本の助成額に加え、昇給制度新設の加算20万円も受給しました。
事例4:基本給を上げたが、固定手当を同時に下げたケース ❌
パートタイマーの基本給を5%引き上げた一方で、毎月一定額を支給していた皆勤手当を廃止したケースです。
このコースでは、改定前後を通じて定額で支給されている諸手当を合理的な理由なく減額していないことが要件となっています。基本給の引き上げ分が要件を満たしていても、諸手当の廃止が確認された場合は助成対象外となります。
賃金規定等を改定する際は、基本給と諸手当を合わせた処遇全体を見直してから進めましょう。
4. 対象となる従業員の要件
次の1〜6をすべて満たす従業員が申請の対象となります。
- 賃金規定等の増額改定日の前日から起算して3か月以上前から、改定後6か月以上継続して雇用されている有期雇用労働者等であること
改定前から3か月以上在籍しており、改定後も6か月以上雇用が継続していることが必要です。なお、勤務した日数が11日未満の月は6か月の計算から除かれます。ただし、有給休暇など労働の対価として全額支給された日は出勤日として扱われます。 - 就業規則または労働協約に基づき増額改定後の賃金規定等が適用され、改定前の基本給と比較して3%以上昇給していること
引き上げ率の計算対象は基本給です。諸手当の増額は含みません。 - 賃金規定等の増額改定日の3か月前から支給申請日までの間に、合理的な理由なく基本給および定額で支給されている諸手当を減額されていないこと
基本給を引き上げながら固定手当を下げた場合など、実質的な処遇が改善されていないと判断されるケースは対象外となります。 - 賃金規定等の増額改定日以降の6か月間、当該事業所において雇用保険の被保険者であること
- 事業主または取締役の3親等以内の親族でないこと
配偶者、父母、子、兄弟姉妹、祖父母、孫、おじ・おばなどが該当します。 - 支給申請日において離職していないこと
申請書を提出する時点で在籍が継続していることが必要です。ただし、本人都合による退職、天災など事業継続が困難になったことによる離職、本人の責めに帰すべき理由による解雇の場合は除かれます。
全員が対象でなくてもよい
事業所のすべての有期雇用労働者等を対象にしなくても、助成を受けられます。ただし、一部の従業員だけを対象とする場合は、雇用形態別・職種別・部門別など、合理的な理由に基づいた区分であることが必要です。特定の個人だけを恣意的に選んで改定することは認められません。
5. 対象となる事業主の要件
次の1〜4をすべて満たす事業主が対象です。5・6は加算措置を申請する場合にのみ必要となる要件です。
- 有期雇用労働者等に適用される賃金規定等を作成していること
就業規則内の賃金条文、または別に定めた賃金規定(規程)・賃金一覧表など、有期雇用労働者等の賃金額が書面で定められていることが前提です。これまで賃金規定等を作成せず、口頭や慣例で賃金を決めてきた会社でも、今回新たに賃金規定等を作成して改定することで申請できます。 - 賃金規定等を3%以上増額改定し、対象の有期雇用労働者等に適用させていること
対象とする従業員の範囲は、雇用形態別・職種別・部門別など合理的な理由があれば一部に絞ることができます(例:契約社員は対象外にして、パートタイマーのみを対象にするなど)。ただし、対象とした範囲の賃金規定等に設けられているすべての等級を3%以上引き上げることが必要です。たとえばパートタイマーの賃金一覧表に1級〜5級の区分がある場合、そのうち下位の等級だけを引き上げて上位の等級はそのままにすることは認められません。 - 増額改定前の賃金規定等を3か月以上運用していたこと
既存の賃金規定等を改定する場合は、改定前の規定を3か月以上運用していたことが条件です。新たに賃金規定等を作成する場合は、作成前の3か月分の賃金支払実績(給与明細・振込記録など)で改定前の賃金水準を確認できることが条件となります。 - 増額改定後の賃金規定等を6か月以上運用し、対象従業員の定額の諸手当を減額していないこと
改定後も6か月間にわたって新しい賃金規定等を継続して運用していることが必要です。この間、毎月固定で支給している諸手当(名称を問わず、実費弁償的なものや毎月変動するものも含む)を合理的な理由なく下げていないことも要件となります。 - 【加算】職務評価加算を申請する場合:有期雇用労働者等および正規雇用労働者を対象に職務評価を実施していること
賃金規定等の増額改定前に職務評価を実施し、その結果を改定に反映していることが必要です。 - 【加算】昇給制度加算を申請する場合:雇用するすべての有期雇用労働者等に適用される昇給制度を就業規則等に新たに規定していること
既存の正規雇用労働者向けの昇給制度を拡充するのではなく、有期雇用労働者等を対象とした昇給制度を新たに規定することが必要です。
6. 申請の流れ
STEP1. 就業規則の整備・届出
就業規則に賃金規定等の内容を新たに規定または変更します。新規作成・変更いずれの場合も、事業所の規模に応じた手続きが必要です。
・常時10人以上の労働者を使用する事業所:労働基準監督署への届出が必要です
・常時10人未満の事業所:就業規則の届出は不要ですが、労働者代表と事業主の氏名等を記載した申立書の作成が必要です
STEP2. キャリアアップ計画の作成・提出
賃金規定等の増額改定を実施する日の前日までに、「キャリアアップ計画書」を作成し、管轄の都道府県労働局またはハローワークに提出します。
たとえば4月1日に賃金を引き上げる場合、3月31日までに提出が完了していなければなりません。
就業規則の変更が済んでいても、計画書の提出が改定日に間に合わなかった場合はその改定分が助成の対象となりません。計画書の準備は改定の実施よりも前に進めておくことが重要です。
提出方法は窓口への持参・郵送・電子申請のいずれかで行えます。
STEP3. 改定後6か月分の賃金を支払う
改定後の賃金規定等に基づき、6か月分の賃金を支払います。
この間、固定で支給している諸手当を合理的な理由なく下げないよう注意が必要です。
たとえば10月1日に賃金を改定し、給与が末締め翌月10日払いの場合、6か月分の賃金算定期間は10月〜3月分となります。3月分の賃金は4月10日に支払われるため、その翌日の4月11日から2か月以内、つまり6月10日までが支給申請の期限となります。
STEP4. 支給申請
6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書と必要書類を管轄の都道府県労働局に提出します。
この期間を過ぎると申請が受け付けられなくなるため、賃金支払い完了後はすみやかに準備を進めましょう。
主な提出書類
- キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
助成金を申請するための基本となる申請書です。 - 賃金規定等改定コース内訳(様式第3号・別添様式3)
改定前後の賃金規定等の内容、対象従業員の人数、引き上げ率などを記載するこのコース専用の内訳書です。 - 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
助成金の支給要件を満たしていることを申告する書類です。設問4〜16はすべて「はい」である必要があり、1つでも「いいえ」がある場合は支給を受けられません。 - 管轄労働局長に受理されたキャリアアップ計画書(写)
賃金規定等の改定前に提出・受理済みの計画書の写しです。変更届を提出している場合はその写しも含めます。 - 改定前後の就業規則または労働協約等(写)
賃金規定等を改定したことを示す書類です。改定前と改定後の両方が必要です。なお、新たに賃金規定等を整備した場合、改定前の書類の添付は不要です。 - 対象従業員の改定前後の雇用契約書または労働条件通知書等(写)
対象従業員が有期雇用労働者等であること、および賃金が引き上げられていることを確認するための書類です。 - 対象従業員の改定後6か月分の賃金台帳および出勤簿(写)
改定後の賃金が実際に支払われたこと、および6か月間の雇用継続を確認するための書類です。
7. Q&A
Q1. これまで賃金規定等がない場合でも申請できますか?
申請できます。
これまで賃金規定等がなく、今回新たに作成して賃金を3%以上増額した場合も助成対象となります。その場合、整備前の賃金台帳などと比較して基本給が3%以上増額していることを確認することになります。
Q2. 一部の従業員だけを対象にしたいのですが、どのような区分であれば認められますか?
雇用形態別・職種別・業務レベル別など、合理的な理由に基づく区分であれば認められます。
具体的には以下のような区分が認められています。
- 正社員・パートタイマー・アルバイトなど雇用形態ごとに賃金規定等が存在し、そのうち一部の雇用形態のみを対象とする場合
- 職種ごとに業務レベルの区分(初級・中級・上級など)が存在し、そのうち一部の業務レベルのみを対象とする場合
一方、年齢のみを理由に対象者を限定することは認められません。
Q3. 等級によって引き上げ率を変えることはできますか?
原則として、対象とした区分の全等級を一律3%以上引き上げる必要があります。
合理的な区分によらずに等級ごとに引き上げ率が異なる場合は、最も低い引き上げ率の助成単価で支給額が決定されます。
ただし、合理的な理由による区分ごとに引き上げ率が異なる場合は、それぞれの区分の引き上げ率と人数で助成額が計算されます。たとえば事務職を5%、現場職を3%引き上げた場合、それぞれの区分に対応する助成単価で計算されます。
Q4. 3%以上増額すると円未満の端数が出てしまいます。四捨五入しても大丈夫ですか?
四捨五入によって増額率が3%を下回る場合は、支給要件を満たしません。
たとえば、改定前の時給が1,410円の場合、3%増額すると1,452.3円となります。
四捨五入して1,452円とすると増額率は約2.98%となり、3%の要件を満たしません。端数が生じる場合は切り上げて1,453円以上に設定する必要があります。
Q5. 改定後に対象の従業員が病気で休職しています。申請できますか?
申請はできますが、休職期間中の取り扱いに注意が必要です。
育児・介護休業や事業主都合の休業(出勤なし)を含め、勤務した日数が11日未満の月は6か月の計算から除かれます。
そのため、休職によって6か月分の賃金支払いが完了していない場合は、その従業員を対象人数から除いて助成額を算定します。なお、その従業員の6か月分の賃金支払いが完了した時点で、別途申請することができます。
ただし、有給休暇など労働の対価として給与が全額支払われている場合は出勤日として扱われます。
Q6. 改定後に人事評価で降格した従業員がいます。その従業員は対象から外れますか?
降格によって増額率が3%を下回った従業員は、対象から除いて申請することができます。
なお、降格後もなお3%以上の増額となっている場合は、他の従業員と同様に対象に含めることができます。降格を理由に対象から除く場合は、人事評価に関する規定や評価結果が確認できる書類の追加提出が必要です。
8. まとめ
賃金規定等改定コースは、パートタイマーや契約社員など有期雇用労働者等の基本給を3%以上引き上げた場合に、1人あたり最大7万円の助成が受けられる制度です。
毎年10月の最低賃金改定に合わせた賃上げも対象となるため、賃上げを検討しているタイミングで活用しやすい制度です。
これまで賃金規定等を整備していなかった会社でも、今回新たに作成することで申請できます。
さらに、有期雇用労働者等に適用される昇給制度を就業規則に新たに規定すれば、1事業所あたり20万円の加算も受けられます。
申請にあたって特に注意が必要なのは順番です。
就業規則の整備や届出はいつ行っても構いませんが、キャリアアップ計画書の提出は賃金規定等の改定日より前に完了していなければなりません。賃金を引き上げてから計画書を提出しても、その改定分は助成の対象となりません。
まずは対象となる従業員の現在の賃金規定等の有無を確認し、3%以上の引き上げが実現できるかを検討することから始めましょう。
要件の詳細や自社の状況への当てはめ方については、管轄の都道府県労働局またはハローワーク、もしくは社会保険労務士にご相談ください。

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※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。
助成金の支給要件は頻繁に変更されるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年年度版)」
「キャリアアップ助成金支給要領(令和8年年度版)」
「キャリアアップ助成金Q&A(令和8年年度版)」