長年パートや契約社員として活躍してくれている高年齢の従業員に、「これからも安心して働いてほしい」と思う経営者は多いでしょう。無期雇用への転換は、そうした思いを制度として形にする取り組みです。雇用が安定することで従業員のモチベーションが上がり、長く働き続けてもらいやすくなります。採用や育成にかけてきたコストを無駄にせず、会社のノウハウを蓄積し続けられるという意味でも、事業主にとってメリットのある選択肢です。
高年齢者無期雇用転換コースは、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換した事業主に対して、国が一定額を支給する助成金です。前の2つのコースが定年の年齢や職場環境の整備を対象とするのに対し、このコースは有期契約で不安定な状態にある高年齢の従業員の雇用を安定させる取り組みを対象とします。
こんな企業におすすめ!
・毎年契約を更新してきたパートや契約社員に、安定した雇用の場を提供したい
・有期契約の高年齢従業員が「いつ契約を切られるか分からない」と不安を感じている
・長年勤めてくれているパート従業員を定年まで安心して働いてもらいたい
・無期雇用に転換することで、採用コストを減らして定着率を高めたい
・労働契約法第18条(5年超の有期契約更新後の無期転換申込権)が発生する前に、自社で制度を整えたい
1. 高年齢者無期雇用転換コースとは?
高年齢者無期雇用転換コースは、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主に対して、国が一定額を助成するコースです。
ここでいう「無期雇用への転換」とは、1年契約や6か月契約といった期間の定めのある雇用契約を、期間の定めのない契約に切り替えることをいいます。転換後の雇用形態はパートや嘱託のままでも構いません。正社員にする必要はなく、労働時間や賃金などの条件はそのままに、契約期間の定めをなくすだけでも転換として認められます。
65歳超継続雇用促進コースが「定年の年齢」を変える取り組みを対象とし、高年齢者評価制度等雇用管理改善コースが「高年齢者が働きやすい環境を整える」取り組みを対象とするのに対し、このコースは「有期契約で雇用が不安定な状態にある高年齢の従業員の雇用を安定させる」取り組みを対象とします。
なお、このコースは労働契約法第18条に基づく無期転換(有期契約を5年超更新した労働者が自ら申し込む転換)とは異なります。この助成金の対象となるのは、通算契約期間が5年以内の有期契約労働者を事業主側が制度として転換する場合です。
2. いくらもらえる?支給額
対象労働者1人につき40万円(中小企業)が支給されます。
支給申請年度(4月〜3月)・1適用事業所あたりの上限は10人までです。例えば、1つの事業所で同じ年度に5人を転換した場合、40万円×5人=200万円の支給を受けることができます。
なお、有期契約労働者を正社員に転換する場合は、このコースとキャリアアップ助成金(正社員化コース)の両方が対象となりますが、同一の労働者に対してはどちらか一方しか申請できません。金額を比較すると、キャリアアップ助成金(正社員化コース)は対象者の条件によって1人あたり40万円または80万円(中小企業)となっています。ただしキャリアアップ助成金は正社員転換後に3%以上の賃金増額が必要など、このコースとは別途の要件があるため、どちらを選ぶかは自社の状況に応じて判断することになります。
3. 活用事例
事例1|長年勤めてきたパート従業員を無期雇用に転換し、安心して働き続けてもらう
小売業を営む従業員20名ほどの会社。レジ業務や品出しを担う60代のパート従業員が数名おり、いずれも勤続年数が長く、現場にとって欠かせない存在だった。毎年の契約更新の際に「また来年もよろしく」と声をかけるものの、本人たちは不安を感じていた様子だった。
無期雇用転換計画書を提出・認定を受けた後、就業規則に無期雇用転換制度を規定。対象の3名の契約を期間の定めのないものに切り替えた。転換後6か月分の賃金を支給した後に支給申請を行い、40万円×3人=120万円の支給を受けた。
転換後は「安心して働けるようになった」との声があり、モチベーションの向上にもつながった。
事例2|契約社員の無期転換で、熟練技術者の離職を防ぐ
製造業を営む従業員30名ほどの会社。専門的な技術を持つ55歳の契約社員が在籍しており、若手への技術指導も担っていた。有期契約のまま毎年更新を続けていたが、本人から「今後の雇用について不安がある」と相談を受けたことをきっかけに、無期雇用への転換を検討した。
無期雇用転換計画を策定・認定を受け、当該契約社員を無期雇用に転換。転換後6か月分の賃金を支給した後に支給申請を行い、40万円の支給を受けた。
転換後は長期的なキャリアを見据えた技術指導に取り組んでもらえるようになり、若手の育成スピードも上がった。
事例3|年度をまたいで複数名を転換し、助成金を計画的に活用する
介護サービスを提供する従業員25名ほどの会社。利用者との信頼関係が深い50代・60代のパート従業員が複数在籍しており、段階的に無期雇用への転換を進めることにした。
2か年計画で転換を実施し、1年目に4名、2年目に4名を転換。支給申請年度ごとに上限10人の枠内で申請を行い、合計で40万円×8人=320万円の支給を受けた。
計画的に転換を進めることで、採用・育成コストを抑えながら雇用の安定を実現した。
4. 支給要件
次のすべての要件を満たす事業主が支給対象となります。
手続き全般にわたって確認する要件
要件1:雇用保険適用事業所の事業主であること
支給申請日および支給決定日の時点で、雇用保険被保険者が存在する事業所の事業主であること。
要件2:高年齢者雇用安定法の遵守
計画書提出日の前日から支給申請日の前日までの間、就業規則が高年齢者雇用安定法第8条(60歳未満定年の禁止)および第9条第1項(65歳までの雇用確保措置)の規定に反していないこと。また、これらの措置を講じていないことにより行政から勧告を受けていないこと(勧告を受けた後、計画申請日または支給申請日の前日までに是正した場合は申請可能)。
計画申請前までに確認する要件
要件3:無期雇用転換制度の規定
有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する制度を、就業規則等に規定していること。転換の実施時期が明示されていることが必要で、「随時」「適時」のように不明確な場合は支給対象となりません。また、対象となるのは派遣労働者を除く有期契約労働者で、通算契約期間が5年以内の者に限られます。
要件4:高年齢者雇用等推進者の選任と雇用管理措置の実施
計画書提出日の前日において、高年齢者雇用等推進者を選任した上で、次のa〜gのうち1つ以上の措置を実施していること(事業主本人でも可)。
・a. 教育訓練の実施
・b. 作業施設・方法の改善
・c. 健康管理・安全衛生への配慮
・d. 職域の拡大
・e. 知識・経験を活かせる配置・処遇の推進
・f. 賃金体系の見直し
・g. 勤務時間制度の弾力化
支給申請前までに確認する要件
要件5:計画認定を受けていること
無期雇用転換計画書を提出し、機構から計画認定通知書の交付を受けていること。
要件6:計画期間内に転換を実施していること
認定された計画に基づき、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を計画期間内に無期雇用労働者に転換していること。
要件7:転換後6か月以上継続雇用し、賃金を支給していること
転換後6か月以上継続して雇用し、転換後6か月分の賃金(時間外手当等を含む)を転換日以後12か月後の賃金支払日までに支給していること。なお、1か月のうち勤務した日数が11日未満の月は6か月の計算から除きます。
要件8:制度を継続して運用していること
支給申請日において、無期雇用転換制度を継続して運用していること。
要件9:転換前後の期間に事業主都合による離職者を出していないこと
転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該事業所において雇用保険被保険者を事業主都合により離職させていないこと。また、この期間に特定受給資格者となる離職者の割合が6%を超えていないこと(ただし、対象人数が3人以下の場合は除く)。
要件10:転換後も雇用保険被保険者として適用していること
無期雇用に転換した日から支給申請日の前日において、当該労働者を雇用保険被保険者として適用させていること。
対象となる労働者の要件
次のすべてに該当する有期契約労働者が対象です。
- 転換日において、有期契約の通算期間が1年以上5年以内で、50歳以上かつ定年年齢未満であること。また、転換後に65歳以上まで雇用される見込みがあること
- 転換日において64歳以上でないこと
- 派遣労働者でないこと
- 労働契約法第18条に基づく申込みによる無期転換(5年超の契約更新後に労働者側から申し込む転換)ではないこと
- 無期雇用労働者として雇用することをあらかじめ約して雇い入れられた者でないこと
- 転換日の前日から過去3年以内に、同じ事業主の事業所で無期雇用労働者として雇用されたことがないこと
- 転換日から支給申請日の前日まで、雇用保険被保険者として適用されていること
5. 申請の流れ
このコースも、取り組みを始める前に計画申請が必要です。
STEP1:計画申請を行う
「無期雇用転換計画書」に必要書類を添えて都道府県支部へ提出します。提出できる期間は、計画実施期間の開始日の6か月前から3か月前までです。例えば、令和9年2月1日から計画を開始する場合、令和8年8月1日から11月1日までが計画申請の受付期間となります。
計画期間は2年から3年の間で設定します。また、就業規則に無期雇用転換制度を規定した上で届け出ていることが、計画申請前の前提条件となります。
STEP2:計画認定を受け、無期転換を実施する
機構本部での審査を経て計画が認定されたら、認定内容に基づき対象労働者の無期雇用転換を実施します。なお、計画実施期間の1年ごとに、事業主都合で一度も転換を実施しなかった場合は計画が失効し、申請できなくなります。
STEP3:転換後6か月分の賃金を支給する
転換後、1か月の勤務日数が11日以上となる月が6か月に達するまでの賃金を支給します。勤務日数が11日未満の月は6か月の計算から除かれるため、休職等がある場合は支給完了時期が後ろにずれることがあります。
STEP4:支給申請を行う
転換後6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に、支給申請書と必要書類を都道府県支部へ提出します。この期間を過ぎると受理されないため注意が必要です。
主な提出書類は以下のとおりです。
・支給申請書(無期様式第5号)
・対象労働者雇用状況等申立書(無期様式第6号)
・雇用保険適用事業所等一覧表(無期様式第1号)
・対象労働者の転換前後の労働条件通知書等(写)
・対象労働者の賃金台帳(写)
・対象労働者の出勤簿等(写)
・雇用保険被保険者資格取得等確認通知書等(写)
・預金通帳等(写)
・無期雇用転換制度が確認できる規程(写)
・支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
STEP5:審査・支給決定・振込
書類提出後、都道府県支部での点検を経て機構本部で審査が行われます。支給決定後、指定の金融機関口座へ概ね2〜3週間で振り込まれます。
6. Q&A
Q1. 計画申請後に新たに採用した有期契約労働者も対象になりますか?
A. はい、対象となります。
計画申請時に在籍していない労働者でも、転換計画申請以降に雇用し、1年以上が経過すれば対象者となりえます。
Q2. 派遣労働者は対象になりますか?
A. 残念ながら、対象となりません。
このコースの対象となるのは、派遣労働者を除く有期契約労働者に限られます。派遣先での直接雇用を検討している場合は、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の活用を検討してください。
Q3. 定年が65歳の会社では、このコースは利用できませんか?
A. 定年が65歳の場合でも、定年後に継続雇用制度等によって65歳を過ぎても働き続けられる見込みがあれば申請できます。定年到達と同時に雇用が終了する場合は、要件を満たしません。
Q4. 転換後に対象労働者が退職した場合、すでに支給された助成金は返還しなければなりませんか?
A. 支給申請時点で在籍していることが要件となっているため、支給申請日の前日までに対象労働者が退職している場合は申請できません。
一方、支給決定後に退職した場合は、原則として返還の必要はありません。ただし、不正受給に該当する場合はこの限りではありません。
7. まとめ
高年齢者無期雇用転換コースは、長年有期契約で働いてきた高年齢の従業員に安定した雇用を提供する取り組みを、国が費用面で後押しする制度です。転換後の雇用形態はパートや嘱託のままでよく、労働時間や賃金を変えずに契約期間の定めをなくすだけでも申請できます。
前の2つのコースと同様に、取り組みを始める前に計画申請が必要です。また、計画実施期間の1年ごとに事業主都合で一度も転換を実施しなかった場合は計画が失効する点にも注意が必要です。まずは就業規則に無期雇用転換制度を規定し、計画申請の準備を進めることから始めましょう。
要件の確認や計画書の作成に不安がある場合は、都道府県労働局または社会保険労務士にご相談ください。

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※本記事は2026年4月時点の法令・情報に基づき作成しています。
助成金の支給要件は変更されることがあるため、具体的な申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認いただくか、所轄の労働局または社会保険労務士までご相談ください。
【参照資料】
厚生労働省「65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)のご案内(令和8年度版)」
「高年齢者無期雇用転換コース 支給申請手引き(令和8年度版)」
「高年齢者無期雇用転換コース 支給要領(令和8年4月改正)」
👉 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:65歳超雇用推進助成金 公式ページ(申請書・要領のダウンロードはこちら)